2010年10月28日

インフルエンザ  222の部位の変異と予後 ECDC
グラム陰性菌薬剤耐性(01):NDM-1,KPC
狂犬病-米国 コウモリの感染率

● ハンタウイルス アルゼンチン
PRO/AH/EDR> Hantavirus update 2010 - Americas (35): Argentina (ER)
Archive Number: 20101028.3918
 情報源: Notife [in Spanish]、2010年10月23日。
Victoria(Entre Rios province)の漁師が、ハンタウイルス感染により死亡したことが、保健当局の検査で明らかになった。18日に the San Martin de Parana Hospital で死亡したこの患者について、the Maiztegui Institute が行った検査で、陽性であることが判明した。この43歳の男性患者の家族の中で、他に感染者は確認されていない...
[Mod.TY - Argentina 国内のヒトでの感染が確認されているハンタウイルス: Andes virus (western Argentina, in the long-tailed pygmy rice rat host, _Oligoryzomys longicaudatus_), related Andes-like viruses Hu39694 (in central Argentina; rodent host unknown),
Lechiguana (in central Argentina in _O. flavescens_), Oran (in northwestern Argentina in _O. longicaudatus_), and Bermejo (western Argentina in _O. flavescens_) virus. 今回の症例はLechiguana virus infection と考えられるが、検査による確定が必要]
地図 Victoria is a city in the southwest of the province of Entre Rios 
関連項目 20060822.2370

● インフルエンザ:222の部位の変異と予後 ECDC
PRO/AH> Influenza (11): site 222 mutations & outcomes 20101028.3917
Molecular surveillance of pandemic influenza A(H1N1) viruses circulating in Italy from May 2009 to February 2010: association between haemagglutinin mutations and clinical outcome
 情報源: Eurosurveillance, Volume 15, Issue 43、2010年10月28日。
要約
イタリア国内で感染循環するパンデミックインフルエンザ A(H1N1) ウイルスの Haemagglutinin sequences について、病原性との関連が示唆される position 222 に着目してを調査を行った。169 人の患者のうち、重症患者52人中3人(5.8%)に the D222G substitution が認められた。軽症例では117人中1人 (0.9 percent) だったが、the D222E mutation については、軽症例 (31.6 percent) と重症例 (38.4 percent) に差はなかった。学校の生徒に発生した cluster of D222E viruses で 222位のアミノ酸が変異したウイルスが、ヒトからヒトに感染 human-to-human transmission したことが確かめられた。
[Mod.CP- ... アトランタ Atlanta の the WHO Collaborating Centre for Reference and Research on Influenza で単離分析されたウイルスのうち、14株で the D222G substitution が確認されたが、 the original clinical specimens にはアミノ酸の置換がなかったことから、これら14株のウイルスの the D222G substitution は laboratory での増殖中に発生したことが示唆されていることも忘れてはならない (Wkly Epidemiol. Rec. 2010;85(4):21-2)]

● 原因不明の致死性疾患-インド
PRO/EDR> Undiagnosed fatal illness - India (05): (UP Uttar Pradesh) RFI 20101028.3916
[1] DDTを散布
 情報源: Yahoo India [in Hindi]、2010年10月27日。
27日、the Ramabai Nagar district で新たに3人が死亡した。この病気による死者は、この3か月間で363人になった。当局は、原因不明の発熱疾患流行に対応し切れていない。感染のあった村に DDT を散布することにしている。
[Mod.TY- DDT に触れられていることからすると、蚊族媒介性を想定しているようだが、原因を示唆する記述は見当たらない。]
地図 the location of Ramabai Nagar (also known as Kanpur Dehat) district in Uttar Pradesh 
[2] "viral" fever は、デング熱と類似するウイルスによるものであった
 情報源: The Times of India, Times News Network (TNN) 、2010年10月28日。
原因が解明された。市内 [Lucknow] で多くの犠牲者が出ていた "viral" fever は、デング熱あるいはこれに類似するウイルスによるものであった。Chhatrapati Shahuji Maharaj Medical University (CSMMU) の専門家チームが確認した。このチームは Khadra locality で発生した死亡の原因調査のために州政府が結成したもので、検査は the Sanjay Gandhi Institute of Medical Sciences (SGPGIMS) で行われた。27日に出された報告書によると、14日と15日に Khadra で死亡した13人の死因に関する調査で、9人がデングあるいはデング類似ウイルスにより死亡し、2人は胃腸炎、1人は心臓発作によると記載されている。血液検査が行われた10人のうち、デング熱が判明したのは6人で、1人はマラリア、3人には以上が認められなかった。
[Mod.TY- The reports of the "mystery fever" cases によって、ますます混乱してきた。前回はマラリアによるものと報告されていた。デング類似とは何をさすのか?血液検査では、常にフラビウイルス間の交差反応が問題となる。(記事にある)ウイルスの変異も、遺伝学的解析なしには信じられない ... おそらく、デング熱、マラリア、腸炎の混在する流行だったのだろう]

◎ グラム陰性菌、薬剤耐性 (01):NDM-1、KPC
PRO/EDR> Gram negative bacilli, resistant, update (01): NDM-1, KPC 20101028.3908
[1] 中国 (寧夏回族自治区 Ningxia, 福健省 Fujian): NDM-1
 情報源: Xinhua News Agency、2010年10月26日。
中国衛生省は26日、国内初となる NDM-1, 多剤耐性 "super" bacterium の患者3人について発表した。中国 CDC の当局者記者会見で、2例は北西部の寧夏回族自治区の CDC から提出された検体から検出されたもので、1例は南東部の福健省からの検体であったと述べた。寧夏回族自治区の検体は、3月8日と10日に出生した乳児2人の便検体で、いずれも低出生体重児として生まれ、生後2日目に下痢と呼吸器感染を発症した。2児とも退院し、現在健康に問題はない。NDM-1 をもつ細菌と疾患との関連はないと述べた。もう1例は、福健省の83才の患者からの検体で、6月11日に死亡している。肺がんの末期患者で、多剤耐性菌と死亡との関連性は不明とされている。
[2] イスラエル
 情報源: Haaretz 、2010年10月27日。
イスラエル国内では初めての "superbug" の患者が確認された。50才のこの女性は、インドで交通事故に遭い、ニューデリーNew Dehli の病院に5日間入院した後 the Sheba Medical Center, Tel Hashomer に移送された。移送先の病院で New Delhi metallo-beta-lactamase-1, better known as NDM-1 をもつ腸内細菌に感染していることが判明した。
[3] ブラジル (Brasilia): KPC
 情報源: The New York Times, Associated Press (AP) report 、2010年10月26日。
ブラジルの首都ブラジリア Brasilia で、少なくとも18人が抗生剤耐性菌の感染流行により死亡したと、26日当局が発表した。ブラジリアでの Klebsiella pneumoniae_ carbapenemase [KPC] 流行の前にも、2007年のイスラエルと2008年のプエルトリコで流行が発生している。
[4] 米国(シカゴ Chicago): KPC
 情報源: Chicago Tribune 、2010年10月22日。
シカゴ Chicago 市内の病院や老人ホームなどで、もっとも強力な抗生剤にも抵抗性で、死亡につながることのある細菌の感染が広がっている。省略して KPC と呼ばれている _Klebsiella pneumoniae_ carbapenemase [-producing] bacteria カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌は、11年前にはじめてノースカロライナ North Carolina 州で報告された、薬剤耐性を有する一般細菌である。2010年のこれまでに、シカゴ市内の37の施設から、各施設平均10例の KPC 患者が報告されている。2009年の報告数は29施設からの平均4例だった。シカゴでこの菌が初めて報告されたのは、2007年12月のことである。
[Mod.ML- New Delhi metallo-beta-lactamase-1 (NDM-1) 産生_Enterobacteriaceae_ 腸内細菌は、これまでに、英国、米国、カナダ、オーストラリア、日本、スウェーデン、ベルギー、オランダ、台湾、そして今回の中国とイスラエルから報告されている。感染あるいは保菌患者の多くが、インドやパキスタンに、美容整形などの治療のために渡航して母国に持ち帰ったものである。このような症例が母国で入院すれば、NDM-1 産生菌の院内感染が起きる可能性がある。NDM-1 は、carbapenems ( imipenem やmeropenemなどの、βラクタム系の抗生物質の種類) に耐性を示す一部の _Enterobacteriaceae_ から産生される酵素で、aztreonam (monobactam 系薬剤の1つ) をのぞいたすべての他の βラクタム系抗生物質に対しても耐性を示すとされる。さらに NDM-1 産生の分離菌は、aztoreonam に対しても耐性を示すことが多く、他のメカニズムが関与していることが示唆される。NDM-1 は同時に、フルオロキノロン fluoroquinolones やアミノグリコシド aminoglycosides といった他の抗生物質に対しても耐性を示すことがあり、NDM-1 producing bacteria に対して効果を示すのは、Colistin と tigecycline だけと言う事もあり得る。しかしこれらの薬剤には深刻な副作用があり、より簡便な治療法に比べ使用されにくく(inferior)、費用もかかる。_Enterobacteriaceae_ のカルバペネム耐性は、NDM-1 によるものだけではなく、the Verona integron-encoded metallo-beta-lactamase (VIM) carbapenemases や the _Klebsiella pneumoniae_ carbapenemases (KPC) という別のメカニズムによるものもある。これらの carbapenemases によって、多剤耐性グラム陰性菌による数々の感染症治療の切り札であった抗生物質カルバペネムの効果が脅かされている。NDM-1 と同様、KPC ならびに VIM は、カルバペネム以外の、penicillins や cephalosporins などの他のβラクタム系抗生物質の効果も失わせる。KPC を産生するのは、肺炎桿菌 _K. pneumoniae_ や大腸菌 _Escherichia coli_ といった腸内細菌科 の菌が多いが、他にも緑膿菌 _Pseudomonas aeruginosa_ やアシネトバクター_Acinetobacter_ といったグラム陰性菌からも産生されることがある。そもそもは緑膿菌からクローンが分離された the VIM-1 gene が腸内細菌でも見つかったという経緯がある。NDM-1, KPC, and VIM は mobile genetic elements (可動遺伝要素) 上に存在するため、同種のみならず、異種 different species のグラム陰性菌への移動が可能で、抗生物質耐性の拡大の主因となっている。対策としては、臨床検体の培養により carbapenem-resistant _Enterobacteriaceae_ が確認されれば、保菌者・感染患者ともに隔離し、場合により、point prevalence surveys または ハイリスク患者の active-surveillance testing を行うとされている (CDC: Guidance for control of infections with carbapenem-resistant or carbapenemase-producing _Enterobacteriaceae_ in acute care facilities. MMWR 2009; 58: 256-60)]

● ウエストナイルウイルス-ポルトガル、ウマ、OIE
PRO/AH/EDR> West Nile virus - Eurasia (12): Portugal, equine, OIE 20101028.3910
 情報源: OIE, WAHID (World Animal Health Information Database), weekly disease information 2010; 23(43) 、2010年10月27日。
感染開始時期 2010年10月4日 初めての報告
原因ウイルス West Nile virus
新たな感染流行
発生地 (01WNF/10) Palmela, Div Setubal, DSVR [Regional Veterinary Directorate] of Lisbon and Tagus Valley 農場
感染した種 ウマ1頭(廃棄処分)

● 大麦の病気,Leaf rust-アルゼンチン 新たな株
PRO/PL> Leaf rust, barley - Argentina: (BA) new strain 20101028.3909
 情報源: Clarin.com, Rural [in Spanish]、2010年10月22日。
Necochea (Buenos Aires province ブエノスアイレス) 近郊は、大麦が主な農作物である。主に輸出用に単一種が栽培されているため、宿主に抵抗性のない真菌が発生すると、感染が広がりやすくなっている。定期的なモニタリングで、州南東部で barley leaf rust が爆発的に増えていることがわかった。現在、抗真菌剤による対応策が実施されている。
[Mod.DHA- Barley leaf rust は、真菌の _Puccinia hordei_を原因とする...]

◎ 狂犬病-米国 2010年10月
PRO/AH/EDR> Rabies, update - USA (21): October 2010 20101028.3907
 情報源: Corpus Christi Caller.com、2010年10月27日。
少年らに石を投げつけられたコウモリ Mexican free-tailed bat を助けようとして近寄った少女に、そのコウモリは歯牙を突き立て、少女は病院を受診し、ワクチン接種を開始された。後にコウモリの狂犬病感染が判明した。
[Mod.PC- 記事にある、コウモリの20%が感染しているとの内容は、一般には受け入れられがたい。異常のないコウモリの感染率と、何らかの異常があるために検査に出されたコウモリの感染率には、大きな差がある。SCWDS Briefs, Rabies in Bats, July 1998, 14.2 によると、ハワイ Hawaii 州を除く全米から、コウモリの狂犬病の報告があり、カリフォルニア California とテキサス Texas 州からの報告が最も多い。(1年間に狂犬病の検査で陽性とされる野生動物の8-27%に当たる)コウモリの狂犬病感染は、感染陽性の野生動物の種としてはそれ程多くないが、近年、米国内での狂犬病感染によるヒトの死亡例のほとんど全てがコウモリに関係したものだった。このことは、ヒトから採取されたウイルスの遺伝学的解析によっても確かめられている。検査を行えば、コウモリの狂犬病ウイルスなのか、他の動物、たとえばアライグマ、スカンク、コヨーテ、イヌなどの狂犬病ウイルスなのかが判別できる。1981年以来、24人が米国内で狂犬病感染により死亡しているが、このうち21人はコウモリに関係する狂犬病ウイルスによるものだった。さらに、症例研究によると、コウモリに咬傷を受けても、気づかれなかったり、虫刺されとして見過ごされたりする可能性があることも分かった。21例のうち、コウモリの咬傷が確認されたのはわずか1例のみで、他の10例は後からコウモリの接触があったと説明されたものだった。これらを合わせても、狂犬病患者のうち、何らかの形でコウモリへの曝露があったことが分かったのは、わずか52%に過ぎなかった。このように、患者に、コウモリの咬傷や狂犬病ウイルス感染が気づかれにくいことを受け、当局は、曝露後接種に関する市民への勧告を変更した。現在、はっきりした咬傷や擦過傷が確認できない、様々な状況-例えば、寝ている間にコウモリが室内に入っているのに気づいたとか、子どもや障害者の部屋でコウモリを見つけたなど-においても、ワクチン接種を考慮する、となっている。コウモリの検査が行えない状況では、治療が望ましい。無作為に採取された、異常のないコウモリでの狂犬病の蔓延率は1%未満である ...]