2010-2

狂犬病 (EBLV-2)、コウモリ 
生ミルクからの感染
ビブリオ菌 Vibrio mimicus
薬剤耐性:NDM-1、KPC、VIM
狂犬病 コウモリとの接触
E型肝炎 輸血関連の感染
インフルエンザ:D222G と重症度
Haff disease 

◎ コレラ-ハイチ、ドミニカ共和国 ワクチン,Matlab variant

PRO/EDR> Cholera - Haiti (28): update & Dominican Rep. 20101214.4441
[1] ハイチ : 最新状況
情報源 Fox News、2010年12月14日。
当局は13日、10月中旬以来ハイチ中に広がっているコレラ感染流行により、死者合計2323人、患者104614人が発生していることを明らかにした。 the Public Health and Population Ministry からの数字によると、過去3日間に、全国で130人がコレラ感染により死亡した。感染流行の開始以来、首都で178人、初めての患者が報告された北部の Artibonite 州では748人が死亡している...また、最も致死率が高いのは、南部のGrand'Anse 州で、確定患者391人中129人が死亡していることが分かった。
[2] ドミニカ共和国 : 最新状況
情報源 Agence France-Presse、2010年12月13日。
ドミニカ共和国内のコレラ感染者数は32人となったが、これまでのところ死者は報告されていないと、13日に報じられた[確定されていないが、1名の感染によると見られる死者が発生している]。ハイチの大統領と共同で対策に当たることを確認した。ハイチとドミニカ共和国は、およそ376kmにわたり、往来の容易な国境を共有している。(首都)The Santo Domingo government当局は、島内のあらゆる地域をを流域に持ち その大部分が the Dominican-Haitian border.に沿って流れるthe Artibonite River からの取水を禁止した。
[3] ワクチン使用の可能性 Potential vaccination program
情報源 National Public Radio (NPR) 、2010年12月10日。
第一線で活躍する公衆衛生担当者や研究者らに対し、ハイチ及び周辺各国でのコレラ感染対策としての一斉ワクチン接種計画についての会合への出席が呼びかけられた。出席者らから、コレラ菌対策としてワクチンは必要との意見が出された。この、ハイチ国内の広い範囲で発生し、ドミニカ共和国にも影響が及び始めたコレラ菌について、研究者らは、より致死性の高い型であるとしている。これまで、専門家らの間では、有効なコレラワクチンは存在しないと見られ、大勢のコレラ患者の治療法として、ワクチン接種は遠ざけられる傾向にあった。しかし、今すぐワクチンを接種するとの考えで一致した。このような変化の裏にはある要因があった : The Pan American Health Organization (PAHO 汎米保健機関) により、予想をはるかに上回るワクチンがストックされていることが判明したのである。同機関の医師は、100万人分を上回る数のワクチンが、 manufacturers' storehouses に存在したと述べた。両国ともワクチン接種を検討している。しかし、同氏は、ワクチンの利用はHispaniola. だけにとどめるのではなく、 the poorer countries of the Caribbean、 Central America 全体に使用すべきとの考えを示した。もう1つの要因として、新たな研究結果により、当初考えられていた以上に、ハイチの菌株の致死性が高いことが判明したことがある。死亡した患者の半数は病院到着前に死亡しており、コレラの初発症状からわずか2時間で死亡していたと、Dr. Thomas Frieden, director of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC) は述べている。ハイチの死亡率は、 Peru in 1991の12倍に上るとされている。当時、 the Western Hemisphere の多くの国々に感染流行が広がったものの、 the Caribbean.には広がらなかった。ハイチの死亡率は減少しつつあるが、この新たな研究の中で、今後数年間はハイチ国内のコレラ感染流行が継続するとの、厳しい見方が示しされている。また、Harvard researchers らは9日、医学雑誌 the New England Journal of Medicine の中で、 the entire genetic code of the Haitian strain(ハイチ株の全遺伝子コード) の完全な解読結果を発表した。この中でさらに、このコレラ菌株 this strain of Vibrio cholera が産生する毒素 toxins が、4-5年前にインドで突如現れた、特別な致死力を有するコレラ菌の毒素と同じ遺伝子の特徴を有していることも判明したとしている。Brigham and Women's Hospital,の医師である指導研究者は、このことで the Haitian bug can kill so fast を説明できるとしている。The Haiti strain には、 the Indian strain と同じ位置の、a string of genetic material の欠失も見つかっており、 "A very strong fingerprint."だと述べられている。
[Mod.LL 注-The more virulent East Asia strain とされているのは、Matlab variant と呼ばれるコレラ菌で、 the El Tor strain と the Classical biotype (生物型) の両方の表現型の特徴を同時に有し、より強い病原性を示す。生物型としてこれまでに、biotypes of _Vibrio cholerae_, classical と El Tor の2種類が知られており、ヒツジ赤血球溶血、ニワトリ赤血球凝集、 the Voges-Proskauer反応、 polymyxin B や biotype-specific viral bacteriophages への感受性などの多数の phenotypic properties により鑑別可能であった。Hybrid biotypesである, so-called Matlab variants についても報告されている。(感染予防対策には)ワクチン接種以外にも、単純ろ過システムsimple filtration system (4つ折または8つ折のサリーの布 a sari cloth folded 4 to 8 times) を使用することで、2 logs 以上のコレラ菌 _V. cholerae_ bacilli が除去することができ、コントロールと比較してコレラの発生が48%減少したことが示されている。自然環境中のコレラ菌は、この方法によりろ過できる water zooplankton (水生プランクトン) に接着していることから、有用な方法である。]
参考文献
1. New variants of _Vibrio cholerae_ O1 biotype El Tor with attributes of the classical biotype from hospitalized patients with acute diarrhea in Bangladesh. J Clin Microbiol 2002; 40: 3296-9.
2. Colwell RR, Huq A, Sirajul Islam M, et al: Reduction of cholera in Bangladeshi villages by simple filtration. Proc Natl Acad Sci 2003;100: 1051-1055.

狂犬病 (EBLV-2)、コウモリ 20101101.3963 11月1日

[1] コウモリの間で感染循環が保持されている
[2] Surveillance for European bat lyssavirus in Swiss bats.
西欧のコウモリの間では、同じウイルス科 [the _Rhabdoviridae_] に属する別のウイルスが今も存在している。European bats は、2種類のリッサウイルス lyssaviruses を保有しており、それぞれ European bat lyssavirus 1 (EBLV-1) and European bat lyssavirus 2 (EBLV-2) と呼ばれており,このウイルスの有病率と疫学が the journal Archives of Virology で報告された。
要約 
1976年から2009年にかけて the Swiss Rabies Centre に提出されたコウモリから摘出した脳の検体のうち、免疫蛍光法により EBLVs が陽性となった検体は 867検体中わずか 3検体で,提出されたのは 1992, 1993 and 2002 年で,すべて _Myotis daubentoni_ の脳だった。2009年にスイス西部の数か所で合計 237頭の bats of the species _M. daubentoni_, _Myotis myotis_, _Eptesicus serotinus_ and _Nyctalus noctula_ を捕獲し,口腔咽頭スワブ検体及び血液検体を RT-PCR と rapid fluorescent focus inhibition test (RFFIT,迅速蛍光焦点阻止検査) を用いて解析した。RNA corresponding to EBLV-2 が検出されたのは oropharyngeal swabs of _M. daubentoni_ bat の 1件のみで、感染性ウイルスは確認できなかった。分子系統発生学的解析法により、以前に確認された Swiss bats (特に2002年にジュネーブで発見された個体) の the other EBLV-2 sequences に非常に近いものであることが示された。3頭の_M. daubentoni_ bats は、RFFIT による血清学的検査では陽性だった。
結論として、スイス国内での有病率は低いが、公衆衛生上の潜在リスク評価のため、今後もサーベイランスが必要と考えられた。
[Mod.CPDiscussion: "血液中の中和抗体と,口腔咽頭スワブ検体でのウイルス RNA が検出されていることから,Swiss Daubenton's bats の集団内で recent active circulation of EBLV があり、感染拡大の可能性があることが示唆される。検体を採取した他の3種のコウモリ (Serotine bat, Noctule bat and Great mouse-eared bat) からは、serology or RT-PCR のいずれの検査においても陽性例は確認されなかった ... the 3 seropositive Daubenton's bats の詳細 ... 
今回示された低い有病率は、従来のウイルス検出法による、西欧における北高南低 the north-to-south gradient の EBLVs 頻度の傾向に一致していた。スコットランドの _M. daubentoni_ に対するスクリーニングでは、陽性率が 0.05-3.8 percent であった。最近行われたイングランドでの精力的なスクリーニングでは 1.0-4.1 percent との結果が得られた一方で、RT-PCR and RTCIT を用いた検査では 363頭の _M. daubentoni_ bats sampled からウイルスは検出されなかった。EBLV-1 は欧州北中部に最も多く見られるウイルスで、東は遠くロシアから西のスペインでも確認されている。ドイツとオランダにおいてのみ、 EBLV-1 と EBLV-2 のいずれもが確認されている。EBLV-1 の主要ベクターとして the serotine bat との特別な関連が認められるが、スペインの greater mouse-eared bats やドイツの noctule bats でも同じような関係が報告されている。serotine bats, noctule bats and greater mouse-eared bats は頻繁にスイス国内全域で確認されているが、検体を採取して解析されたことはほとんどなかった。フランスやドイツで serotine bats の症例が常時報告されていることから、これまでの (スイスでの)サーベイランスでは、限られた検体数やサンプリングの偏りのため感染が見逃されてきた可能性がある。”]
写真 Images of Daubenton's bats

生ミルクからの感染 20101030.3939 10月30日

(米国内で)農場の生ミルクを飲んだ,3人がカンピロバクターに,他の 4人がクリプトスポリジウムという寄生虫に感染していた。
[Mod.LL-生ミルクに関係する人獣共通感染病原体として,ブルセラ菌Brucella abortus_, _Brucella melitensis_,非定型抗酸菌 _Mycobacterium bovis_,サルモネラ菌 _Salmonella_ species,リステリア菌_Listeria monocytogenes_,カンピロバクタ _Campylobacter_ species,エルシニア菌 _Yersinia_ species,コクシエラ菌_Coxiella burnetii_, 大腸菌_E. coli_ O157:H7 などがある。
人獣共通感染疾患ではないが生ミルク摂取に関係するものとして,化膿連鎖球菌_Streptococcus pyogenes_,チフス菌_Salmonella_ Typhi,コリネバクテリウム菌_Corynebacterium diphtheriae_,赤痢菌_Shigella_ species,パラチフス菌_Salmonella_ Paratyphi A,_Salmonella_ Paratyphi B,黄色ぶどう球菌性エンテロトキシン enterotoxins from _Staphylococcus aureus_,A型肝炎 hepatitis A などがある。
未殺菌のミルク摂取に関係する疾患についての報告(Milk and Infectious Diseases in Humans. Clin Infect Dis 2006; 43: 610-5)から抜粋;
マサチューセッツ州で 1996年と1998年に起きた2つの事例では、狂犬病のウシのミルクに rabies virus が存在していた可能性があり、理論上,ミルクによる狂犬病ウイルスの感染伝播が起こり得た。殺菌温度でウイルスは死滅するが,80人がこの2頭の狂犬病感染のウシのミルクを殺菌せずに飲み、別の9人はウシの唾液に接触していた。89人全員が曝露後接種を受け、1人も狂犬病を発症しなかった。オクラホマ Oklahoma 州でも 2006年に、狂犬病感染のウシの生ミルクまたはクリームを摂取した事例が発生した。
人獣共通アルボウイルス感染症のダニ媒介性脳炎は、中欧・東欧・ロシアに常在するダニ(刺咬)による感染が多いが,感染したウシやヤギのミルクからもウイルスが検出され、未殺菌ミルクの摂取によるヒトへの感染伝播の可能性が指摘されている。しかし、1編の case-control study では oral transmission を証明できなかった。
後に Brainerd diarrhea と命名された 1983-1984年にミネソタ州 Brainerd の住民 122人に起きた下痢症症候群では、超急性に発症して全身症状を伴わず、一般的な治療や抗生物質に反応せず、平均病悩期が長期化する(16.5か月)という特徴を持っていた。この症候群は、1か所の農場からの生ミルク摂取と関連していた。病原体は一切検出されなかった。こ の農場から出荷される全ての乳製品を diverted し(直配せず)殺菌処理したことで,アウトブレイク The outbreak of Brainerd diarrhea は鎮静化した。
イリノイ州とテキサス州の事例では、ミルクとの直接の関連性はなかったが、感染伝播の原因としてウシのいた場所付近の井戸水が疑われている 。
生ミルクとの関係はなかったが、Brainerd-like diarrhea がエクアドルに寄稿したクルーズ船 cruise ship visiting the Galapagos Islan の乗客 58 人(15% of 394 passengers)に発生している]

ビブリオ菌 Vibrio mimicus 20101029.3929 10月29日

重症の下痢症で集中治療中の入院患者2名の便検体から、_Vibrio mimicus_ が検出された。調理人が,ネット業者から取り寄せた live crayfish を入れていたクーラーを洗わないまま,ボイルした cooked crayfish を入れるのに使用していた。
[Mod.LL-2000年以降,米国内で少なくとも7種類の,コレラ以外のビブリオ菌  noncholeragenic _Vibrio_ species (_V. vulnificus_, _V. parahaemolyticus_, nontoxigenic _V. cholerae_, _V. alginolyticus_, _V. fluvialis_, _V. mimicus_, and _V. hollisae)による疾患が毎年報告されている。(20050915.2723) the genus _Vibrio_として一括りにされているが病像は異なる。noncholeragenic _Vibrio_ は、食中毒か創傷感染に関係している。ヒトからヒトに感染することはなく、まれに発生する集団発生は、contaminated shellfish の摂取の結果であることが多い。_V. mimicus_ という名前は、遺伝学的に _V. cholerae_ にもっとも近いという点でぴったりである。_V. mimicus_ と _V. cholerae_ は 16S rRNA gene sequences が100%一致しており、DNA-DNA relatedness も 約80% が同じであり、今回の症例のように virulence factors も共通している。_V. mimicus_ はアメーバ free living amoebae との間の強い相互作用を有している。最も大きな_V. mimicus_ による食中毒は、2004年にタイで発生し、undercooked seafood が関係して 300人以上が発症した。]

◎ 抗生物質薬剤耐性:NDM-1、KPC 20101028.3908 10月28日

[Mod.ML-New Delhi metallo-beta-lactamase-1 (NDM-1) 産生_Enterobacteriaceae_ 腸内細菌は、これまでに、英国、米国、カナダ、オーストラリア、日本、スウェーデン、ベルギー、オランダ、台湾、そして今回の中国とイスラエルから報告されている。感染あるいは保菌患者の多くが、インドやパキスタンに、美容整形などの治療のために渡航して母国に持ち帰ったものである。このような症例が母国で入院すれば、NDM-1 産生菌の院内感染が起きる可能性がある。NDM-1 は、一部の_Enterobacteriaceae_ から産生される carbapenems に耐性を示す酵素で、aztreonam を除くすべての βラクタム系抗生物質に対しても耐性を示すとされる。NDM-1 産生菌が aztoreonamに対しても耐性を示すことが多く、他のメカニズムが関与していることが示唆される。NDM-1 は同時に、フルオロキノロンやアミノグリコシドといった他の抗生物質に対しても耐性を示すことがあり、NDM-1 産生菌に効果を示すのは、Colistin と tigecycline だけと言う事もあり得る。しかしこれらの薬剤には深刻な副作用があり,他の治療薬に比べ使用されにくく費用もかかる。_Enterobacteriaceae_ のカルバペネム耐性は、NDM-1 によるものだけではなく、the Verona integron-encoded metallo-beta-lactamase (VIM) carbapenemases や the _Klebsiella pneumoniae_ carbapenemases (KPC) という別のメカニズムによるものもある。これらの carbapenemases によって、多剤耐性グラム陰性菌による数々の感染症治療の切り札であった抗生物質カルバペネムの効果が脅かされている。NDM-1 と同様、KPC ならびに VIM は、カルバペネム以外の penicillins や cephalosporins などの βラクタム系抗生物質の効果も失わせる。KPC を産生するのは、肺炎桿菌 _K. pneumoniae_ や大腸菌 _Escherichia coli_ などの腸内細菌科の菌が多いが、他にも緑膿菌 _Pseudomonas aeruginosa_ やアシネトバクター_Acinetobacter_ などのグラム陰性菌からも産生されることがある。そもそもは,緑膿菌からクローンが分離された the VIM-1 gene が、腸内細菌でも見つかったという経緯がある。NDM-1, KPC, and VIM は,mobile genetic elements (可動遺伝要素) 上に存在するため、同種のみならず、異種 different species のグラム陰性菌への移動が可能で、抗生物質耐性の拡大の主因となっている。対策としては、臨床検体の培養により carbapenem-resistant _Enterobacteriaceae_ が確認されれば、保菌者・感染患者ともに隔離し、場合により point prevalence surveys または ハイリスク患者の active-surveillance testing を行うとされている(CDC: Guidance )]

狂犬病 コウモリへの暴露は気づかれないことが多い 20101028.3907 10月28日

[Mod.PC-コウモリの20%が狂犬病に感染しているとの記事内容は、一般には受け入れられがたい。異常のないコウモリの感染率と、何らかの異常があるために検査に出されたコウモリの感染率には、大きな差がある。SCWDS Briefs, Rabies in Bats(1998)によると、ハワイ州を除く全米でコウモリの狂犬病の報告があり、カリフォルニアとテキサス州からの報告が最も多い。狂犬病検査で陽性となる野生動物のうちの 8-27%を占めるコウモリは,近年の米国内での感染死亡例のほとんど全てに関係していた。このことはヒトから採取されたウイルスの遺伝学的解析によっても確かめられており,狂犬病ウイルスが,コウモリ,アライグマ、スカンク、コヨーテ、イヌなどのいずれの動物のものかが判別できる。1981年以来、24人が米国内で狂犬病感染により死亡しているが、このうち 21人にコウモリの狂犬病ウイルスが関係していた。さらに症例研究によると、コウモリの咬傷を受けても、気づかれなかったり、虫刺されとして見過ごされたりする可能性があることも分かった。21人の患者のうち、コウモリの咬傷が確認されたのはわずか 1例のみで、他の 10例は後からコウモリの接触があったと説明されたものだった。これらを合わせても、何らかの形でコウモリへの曝露があったことが分かったのはわずか 52%に過ぎなかった。患者にとってコウモリの咬傷や狂犬病ウイルス感染が気づかれにくいことを受け、保健当局は曝露後接種に関する市民への勧告を変更した。現在、はっきりした咬傷や擦過傷が確認できない、様々な状況 -例えば、寝ている間にコウモリが室内に入っているのに気づいたとか、子どもや障害者の部屋でコウモリを見つけたなど-においても、ワクチン接種を考慮することとなっている。コウモリの検査が行えない状況では治療が望ましい。無作為に採取された、異常のないコウモリでの狂犬病の蔓延率は 1%未満である...]

E型肝炎 輸血による感染 20101027.3901 10月27日

[ WHO Hepatitis E Fact sheet(現在リンク切れ)の引用から,輸血によるE型肝炎ウイルス感染の事実はないとしたが、以下の2つの投稿により、間違いであることが判明した。]
[1] 少なくとも6編の、輸血による感染伝播の報告がある.
hepatitis E virus [HEV]には、いくつもの genotypes がある。Genotype 1 and 2 はヒトに感染し,genotype 3 は主にブタに感染する。ヒトでのE型肝炎の発生分布とは無関係に、世界中のブタの間で genotype 3 の感染が発生している。生後4か月のブタの抗体陽性率は 50 to 90%,血清中および便中の RNA prevalence は 5 to 55% で、2から4か月で最も高い。genotype 3 は so-called autochthonous transmissions(自所内感染)において検出される。ブタからヒトへの感染経路は分かっていない。フランスでは、ブタを使った手術トレーニングを行った外科医が感染した。日本からも、非加熱または加熱不十分のブタ,イノシシ,シカのレバーや肉からの感染が数件報告されている。ウイルス血症の期間に,血液により感染する可能性がある。少なくとも 6編の輸血による感染伝播の報告がある。ヒトにおいては、genotype3 の感染を疑われることはなく、検査もなく、軽症であるため、見過ごされている可能性がある。(独・Priv.-Doz. Dr. med. habil. Gregor Caspari)
[2] 輸血後肝炎の報告がある
日本やドイツから、輸血による E型肝炎感染が報告されている。
(オーストリア・Baxter BioScience、Thomas R. Kreil, Ph.D.)

インフルエンザ:D222G と重症度 20101026.3881 10月26日

ウイルス変異によるレセプター結合性の変化が重症化の原因
死亡例と関連した [2009] pandemic influenza には、異なる気道上皮 different subset of cells への感染を可能にする変異があったことが、新たな研究で示された。この変異ウイルスにより、肺の異物排出能が障害される可能性がある。ウイルス表面の蛋白に D222G 変異があり、感染により重症化や死亡がおこりやすい。
[Mod.CP-the D222G mutant virus には、the haemagglutinin molecule の222番目の位置での、アミノ酸の置換(aspartic acid → glycine)が存在する。WHOによれば、the D222G mutation があったのは、pandemic influenza A(H1N1) 患者全体では 1.8%以下であるにもかかわらず、死亡患者では 7.1%に上っている。繊毛細胞にあるレセプターを含む、より多くの気道のレセプターに結合することが可能であった micrograph showing the airway lining, with hair-like projections visible on ciliated cells
Journal of Virology 誌より
(要約) the hemagglutinin of pandemic influenza A(H1N1) 2009 viruses のレセプター結合部位の変異が散発的に確認されており、Asp222Gly (D222G) substitution(置換)と重症度や死亡との関連性が認められた。培養ヒト気道上皮細胞において 222G variants が、(nonciliated cells を標的とする 222D or 222E と比較して) 高頻度に ciliated cells に感染することを確認した。Carbohydrate microarray analyses の結果、222G variants は、有毛気管上皮細胞及び肺内上皮上に発現する、より広範囲の 2-3-linked sialyl receptor sequences に結合することが示された。このような特徴が、222G mutants による重症化に関係すると考えられる。
(the authors' comment)the D222G mutation が、重症下気道感染の原因であるか、結果であるかは未解決である。しかし(この変異の)発生により、疾患が重症化することは明らかである。The altered receptor specificity ならびに distinctive cell tropism (向性) of the D222G mutants of H1N1pdm は、病原体の危険度の指標であり、ウイルスの変化を注意深く監視することが重要である"]

◎ Kashin-Beck disease-中国(チベット)20101022.3829 10月22日

チベット地方で治療法のない骨の病気が発生し,11の郡の14662人以上が Kaschin-Beck disease と診断された。関節の肥厚と変形を生じ、様々な運動が制限されると報道されている。主食の大麦に発生した真菌が原因であると一部で推定されている。住民の移住計画が実施され、過去5年間に約2万人が移住した。
[ModTG-疾患の原因は未確定であるため、移住政策が打開策となっている。大麦に発生する真菌の_Fusarium_ が原因として疑われているが、この真菌がチベット内でこの地域だけに発生する真菌なのか、それとも他の地域でも発生しているのだろうか? 米国でもトウモロコシの_Fusarium_ がウマの死亡原因となることがある。_Fusarium_ は、生育に適した grate [*grain?] の particular microclimate を好み、大麦やトウモロコシ以外の穀物にも発生する。セレンも原因として疑われているが,過剰摂取や不足は確認されていない。しかし、セレンが原因であれば、栄養調査や採血による調査によって確認できるかも知れない]
[Mod.LM-別名 'big bone disease,' とも呼ばれ、小人症をきたすこともあるこの osteoarticular disease (骨関節疾患)について記述した 2人のロシア人医師から命名されている。アジアの,中でもチベット,朝鮮半島,シベリアのごく限られた地域だけに分布し、1992年に国境なき医師団による調査が開始されるまで謎に包まれていた。Kashin-Beck disease は、おそらくミネラル不足と貯蔵穀物中の真菌毒 mycotoxins の併存など、多因子による疾患と考えられる。詳細な情報と写真 ]

◎ Haff disease 20100929.3535 9月29日

ザリガニの摂食による、原因不明の筋融解
江蘇省・南京 Nanjingで発生した、ザリガニが関係する Haff disease は、横紋筋融解や急性腎不全に至る深刻な疾患である。魚類や魚介類が保有する特定されていない毒が原因で、摂取後 24時間以内に発症する,発熱や麻痺を伴わない筋肉と関節の痛みの症状などが見られる。1924年に初めて発見されたバルト海沿岸の Haff Beach に因んで命名された。以後、1000人以上の中毒患者が発生しており、2000年には北京でザリガニを食べた6人が Haff disease を発症している。数十年間に国内でザリガニを食べた数百万人のうち、発病したのは23人とそのリスクは低い
[ModTG-Haff disease は、原因不明の横紋筋融解 rhabdomyolysis 症候群で、ある種の魚類の摂取後に発生するが、原因となる toxin は特定されていない。 横紋筋融解症候群とは,骨格筋損傷の結果、筋細胞成分が循環中に放出されることによる症候群を指す。1920年代、バルト海沿岸の汽水の入り江にある、Koenigsberg Haff 一帯の住民1000人に起きた、激しい筋肉痛と硬直を特徴とする病気に対して "Haff disease" の病名が付けられた。その後も、スウェーデンや旧ソ連などで、同様の流行が発生している。原因は特定されていないものの、疫学調査により,魚類、特に burbot(イソアイナメ)と疾患との関連が示されている。典型例では近位の横紋筋融解が見られるとされており、筋肉の圧痛、固縮、褐色尿を伴う。軽症例も存在する。この報告では発症までの平均期間は8 (6-12) 時間となっているが,約18時間後に発症することが多い。検査所見として,CK (creatine kinase) level の著明な上昇があり,MB (muscle/brain) fraction は5% 未満となる。他の筋由来の酵素 (LDH, GOT, and GPT) なども上昇する。ミオグロビン尿が、肉眼的に血尿と間違われることが多い。疾病に一致する病歴から診断が行われる。治療は対症療法で、尿細管に対するミオグロビン毒性を軽減する目的で、病初期から大量の輸液が行われる。合併症としては、電解質異常、腎不全、DIC などの発生の可能性がある。通常は 2-3日で軽快する。致死率は約 1%とされている]
参考文献1 : CDC. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2010; 47(50): 1091-3 
写真1 burbot fish 
写真2 Chinese crawfish