2017

Mayaro virus(マヤロ病)
ラクロス脳炎 米国
Bourbon virus-米国
ヒトヒフバエ Dermatobia hominis
スポロトリコーシス症
黄熱:ワクチン
毒グモ咬傷 funnel-web spiders
ブルーリ潰瘍

Mayaro virus(マヤロ病) 20170913.5312944 9月13日
Mayaro virus は,チクングニアウイルスと同じくアルファウイルス an alphavirus and a member of the Togaviridae family of enveloped RNA viruses である。1950年代に初めて Trinidad の発熱患者から分離され,その後,ボリビアとブラジルでアウトブレイクが報告された。以降,the Amazon and other tropical regions of South America でも確認され,主に _Haemogogus_ mosquitoes が感染伝播し,保有宿主動物は森林に住む非ヒト霊長類と,おそらくは渡り鳥と考えられている。デング熱と重複感染例があり,ネッタイシマカによる伝播も示唆されている。過去最大のアウトブレイクは,2015年にベネズエラ北西部の農村部で報告され,77例の患者のうち 19例の血清抗体陽性が確認された。また,非ヒト霊長類が生息しないハイチで感染例が確認され,他の保有宿主またはヤブカ属を介したヒト-ヒト感染も考えられている。
[Mod.TY-チクングニヤ,デングと臨床症状が類似するため,南米やカリブ海でどれくらい MAYV infections が起きているかを知ることは難しい。マヤロウイルスの検査は,発熱から 6ないし7日目の血清学的検査法 - IgM ELISA - で行われる]

ラクロス脳炎 米国 20170808.5237130 8月8日

La Crosse encephalitis は 16歳以下の患者に感染(発症)することが多い。感染により irritates the brain; 頭痛,発熱,嘔気,嘔吐,めまい等の症状を起こし,重症例ではけいれんや昏睡となる。ワクチンや特異的治療法はなく,通常入院が必要となる。血液検査によって診断され,保健当局への報告義務がある。East Tennessee and Appalachia はウイルスの温床 hotbeds for the virus となっており,全米の患者の 1/4以上を占めている。
[Mod.TY- La Crosse virus (LACV) による脳炎が最も多く見られるのは未就学児で,成人の感染例はどちらかというとまれである。死亡例はめったにないが,入院期間が長期となる可能性があり,神経学的後遺症をのこすこともある。経卵感染により,ほ乳類の吸血なしでも感染力を有した成虫が発生するため,他の節足動物媒介ウイルスに比べて夏のより早い時期から患者が発生する。経卵感染があり,昼行刺咬性のある蚊族 day-biting _Ochlerotatus (Aedes) triseriatus_ (写真) が主なベクターである。The CDC has a good summary of LACV]
地図 (map of the distribution of California virus serogroup neuroinvasive disease cases,mainly LACV cases):major focal geographic areas: (1) in the unglaciated areas of southeastern Minnesota/southwestern Wisconsin/northwestern Illinois, (2) Ohio, and (3) the central Appalachian Mountain areas of Virginia/West Virginia and North Carolina/Tennessee

Bourbon virus-米国 ダニ媒介性 20170703.5147985 7月3日

全米で 4例目の患者 only the 4th confirmed case of Bourbon virus である。致死性ではあるものの,今回の事例が死亡したかどうかは明らかにされていない。バーボンウイルスが初めて発見されたのは,2014年のカンザス州 Bourbon County, Kansas だが,疾患自体についてはまだよく理解されていない。
[Mod.LK- Bourbon virus は一本鎖マイナス RNA トガウイルスで,発生の季節性やダニ刺咬との関連性から,ダニ媒介性疾患が想定されている。全米の中西部及び南部で限られた数の症例が確認され,一部の患者は感染後死亡している。
参考文献 Novel Thogotovirus Associated with Febrile Illness and Death, United States, 2014. Emerg Infect Dis. 2015; 21(5):760-4. doi: 10.3201/eid2105.150150]

ヒトヒフバエ,ブラジルからの帰国者 20170428.5002486 4月28日

ブラジルの雨林の中でピーナッツ大の虫に刺された場所の膨らみが,中国に帰国後,開口し激しい痒みを感じ,皮下から幼虫が這い出した。Dermatobia hominis とよばれる,ヒトウマバエ a human botfly の卵を持った虫に刺されたと考えられる。
[Mod.MHJ- この双翅類の昆虫は,独特の生活環を有する。成虫はメキシコ,中南米に生息する。ハエウジ症を起こす偏性双翅類とは異なり,メスが直接宿主に卵を産み付けることはない。その代わりに,吸血性の他の双翅類や蚊族,ダニなどの体表面に,速乾性で吸着性の性質を利用して卵を産み付ける。その後の固有宿主との接触時に,卵の前面が下方に向くようにキャリアに付着する。この部分にふたがあり,そこから幼虫が萌出する。幼虫は宿主の皮膚を貫通して皮下組織に侵入し,侵入部に腫脹を形成する。Dermatobiahominis は,皮下を蛇行することはない。The tórsalo は,宿主の体内で幼虫の最終段階まで 35から70日かけて成長し,その後侵入口から地上に落下する。全生活環は 90から 120日間となる [From AAVP] 。幼虫が皮膚を貫通する際に痛みと局所の炎症を伴い,徐々に膿が貯留する。家畜ではミルクや肉の生産を減少し,殺処分の際に感染に気付かれる。約 90 % のウシに D hominis に対する免疫が付与されるワクチンが開発された。Merck Veterinary Manual: Wikipedia ]
参考項目 感染研

スポロトリコーシス症-ブラジル ネコ 20170324.4921570 3月24日

[1] スポロトリコーシス Sporotrichosis は適切な時期に治療されない場合,深刻で致死性の病変となる可能性がある真菌感染症で,土壌中に存在し,ひっかき傷により,ネコ,イヌ,そして飼い主にに感染する [土壌から直接感染することもある]。なぜネコが最も感染しやすくまた重症化するのか,理由はわかっていない。感染のあるネコは爪にも真菌を保有していて,他のネコやイヌとのけんかや,ネズミを捕る際に感染させる。この病気にかかるとペットは捨てられることが多く,路上で感染が拡大し,(死体が) 庭やごみ捨て場に埋められると土壌も真菌に汚染される。
[2] sporotrichosis に感染したネコの頭数が,2016年 400 % 増加した。ブラジルでは _Sporothrix brasiliensis _ による感染が最も多い。2016年だけで,13 536 cases in cats and 580 in humans が報告された。ヒトにおいて重症となることはまれであるが,ネコでは,特に頭部の深刻な病変を生じ,皮膚,筋肉,骨,さらには内臓にまで病変が及び,死に至る。今回の感染増加の原因は不明である。
原著タイトル Epidemic of Sporotrichosis: cat to human transmission. PLoS Pathog 2017; 13(1): e1006077;
"Introduction
the genus _Sporothrix_ に属する the 51 species のほとんどは,病原性を持たない環境中の真菌で,樹木,植物,土壌が朽ちる過程に深く関係する。しかし,the _Sporothrix schenckii_ complex は,ほ乳類も病原性を有し,ヒトや動物のスポロトリコーシス症の病原体である,_S. brasiliensis_, _S. schenckii_ sensu stricto (s. str.), _S. globosa_, and _S. luriei_ などが含まれる。ほ乳類への感染に成功した重要な鍵には,25℃の環境中での菌糸腐生生活環から,より高温の 35-37℃の寄生酵母細胞に変化する能力が関係している。汚染のある土壌,植物,有機物から創傷を介して皮内や粘膜内に真菌が外科的に注入され発生する。あるいは,動物間 (ネコ-ネコ,ネコ-イヌ) や人獣共通感染 (ネコ-ヒト) によっても感染伝播される。多くは感染したネコによる引っ掻き傷や咬傷による。

黄熱ワクチン 20170323.4919015 3月23日

60歳以上の旅行者,何をアドバイスすれば良いのか?
黄熱ワクチン関連内臓疾患 yellow fever vaccine-associated viscerotropic disease (YEL-AVD) のデータでは,高齢者について微妙に異なる見解が示されている(Seligman SJ and Casanova JL. Yellow fever vaccine: worthy friend or stealthy foe? Expert Rev Vaccines. 2016;15(6):681-91)。自己免疫性疾患または胸腺腫がない女性の場合,56歳から76歳までの年齢層の YEL-AVD 患者は報告されていない。対して,自己免疫性疾患も胸腺腫もない 56-76歳の男性では,22人の YELL-AVD が確認されている。77歳以上の患者 (女性 2名,男性 3名)はすべて死亡している。これらのデータに基づくと,自己免疫性疾患も胸腺腫もない 56-76歳の女性には,ワクチン接種を勧めてもよいかもしれないが,この年齢層の男性のリスクの定量化は困難である。黄熱感染のリスクが収まるまで旅行を延期すべきであろう。77歳以上の年齢層に対しては,接種による YEL-AVD のリスクが高く,ワクチンを接種すべきではないと説明すべきだろう。
[Mod.TY- 米・NY 医科大学の Dr. Seligman のアドバイスを真剣に受け止めなければならない。サルの死亡が報告される地域には,ワクチンを接種していないものは立ち入るべきではないが,サルの死亡の報告がない地域が,必ずしも黄熱ウイルスが存在しない地域とは限らない。おそらくヒトへの感染伝播リスクは小さいが,ゼロではない]
[Mods.DK/LM/EP/ML/MPP- a risk benefit issue である。どうしてもハイリスクエリアに行かなくてはならず,ワクチン接種の禁忌に該当しないなら,ワクチンを接種すべきである。これまでで最も優れた,入手可能な AE に関するデータは Advanced age a risk factor for illness temporally associated with yellow fever vaccination. Emerg Infect Dis, 7 (6) (2001), pp. 945-951.である。このデータでは,75歳を過ぎるとリスクが増大することが示されている。Yellow Fever vaccine-viscerotropic disease (YEL-AVD) の致死率は,少なくとも 60% of cases で,年齢および胸腺疾患がリスク増加因子と関連付けられている。リスクは,60歳以上の旅行者での黄熱ワクチン接種 10万ドース当たり from 0.4 to one case であるが,70歳以上では 2.3 cases per 100,000 doses に増加する。ただし,(発生の) 報告は初回接種に限られている。高齢者 (および妊娠女性)の黄熱ワクチン接種のリスクとベネフィットの評価は非常に複雑であり,理想を言えば,旅行医学の専門医に委ねるのがよい。(黄熱感染の) 疾患の重大性を鑑みれば,(黄熱) ワクチンが接種できない場合は,areas with active transmission への旅行は見合わせるべきであろう]

毒グモ咬傷-オーストラリア ジョウゴグモ 20170225.4864792 2月25日

世界で最も危険毒グモのジョウゴグモの刺傷を受けたオーストラリアの 10歳の少年が,12本の抗毒素 anti-venom による治療を受け,命を取り留めた。何度もけいれん発作を起こして,散瞳し口から泡を吹いた。
The small and deadly funnel-web spider:
- 材木や低木の下や腐った樹木などの湿った場所を好む,漏斗の形の巣を作る
- 40 species あり,すべてが危険というわけではない
- The Sydney Funnel-web Spider が死亡や重症例に最も多く関係するとみられる。
- ときにプールに落下することがあり,水面下でも 30時間以上生存可能である。
- 毒素により心停止,神経系および消化器系,呼吸困難をきたすことがある。
- オーストラリアではこれまでに 13例の死亡が報告されている
- 抗毒素療法 an anti-venom programme が開始されて以降,死者は発生していない。
[Mod.TG - The Australian funnel-web spiders は Atricinae, a subfamily of spiders in the funnel-web family of Hexathelidae である。この特殊な亜科 subfamily のメンバーはすべてオーストラリア原産である。(見た目の)区別がつきにくく,ジョウゴグモ funnel-web spiders はすべて危険と考えた方がよい。光沢のある黒または茶色のクモで,メスに比べ,オスの方が小型であることが多い。頭部と体幹部は,わずかに有毛性である。from Tasmania to north Queensland にかけてのオーストラリア東岸および高地の湿性森林地域に生息する。シドニー近郊の生息域など ...
漏斗状のクモの巣のある巣穴 Funnel-webs burrow は,岩の下,朽ちた丸太の中や下,地面の割れ目などの,湿気が多く,涼しい場所にある。庭においては,岩,生い茂った低木を好み,まれではあるが芝生などの開放空間でも発見される。最も特徴的なサインは,入り口から放射状に広がる不規則な形態のシルク状の網目で,雨によって巣が流されると,オスは網(クモの巣)を修復するため,活動性が増す。漏斗状の巣は非常に乾燥に弱いため,湿度の高い場所を好む。夜間に活動することが多い。毒素による死亡例はすべてオスのクモによる - 暖かい季節(11月から4月まで)の夜間に,オスはメスを求めて巣穴の中を動き回り,家屋やガレージ内で発見されるためである。オスグモの毒には Robustoxin (d-Atracotoxin-Ar1) と呼ばれる特殊成分が含まれていて,ヒトとサルの神経系には等しく深刻な影響を与えるが,他の哺乳類には影響しない。メスの毒にはこの成分がないことが,メスの刺傷による死亡がないことの説明となっている。しかし,funnel-web species のすべての種で,このような毒の性差があるわけではない。抗毒素が初めて臨床用に開発されたのは 1981年で,これ以降,死亡例は発生していない。同時に,圧迫/固定による救急処置の効果も実験的に確かめられている。抗毒素は,他の危険なジョウゴグモにも有効で,さらに cases of mouse spider envenomation の治療でも有効だった。各市および地域の主要病院には,Antivenom が保管されている。圧迫固定により表面の組織が締め付けられ,筋肉の動きが制限されることにより,リンパ液の流れ(による毒の拡散)が停滞する。クモによる刺咬の部位は四肢であることが多い。刺咬があったらすぐに,圧迫包帯を巻き,足首の捻挫の時のようにしっかりと,刺咬部位から上に四肢の全長に巻き付ける。四肢が動かないよう,副子も使用する。なるべく患者を刺激しないようにしながら,医療機関を受診する。できれば,クモの種類が特定できるよう捕獲する ... 出典]

ブルーリ潰瘍-サントメプリンシペ 20170208.4824961 2月8日

2016年10月以来,人口約 5万7千人の首都サントメ São Tomé の住民らの中で 1094人の激しい皮膚潰瘍を特徴とする患者が確認されている。
[Mod.ML-Buruli ulcer (オーストラリアでは the Bairnsdale ulcer) は,抗酸菌 _Mycobacterium ulcerans_ による皮膚と軟部組織の慢性感染症で,上下肢に大きな潰瘍を形成することが多く,付近の骨への感染と永久的な変形と障害が及ぶことがある。Buruli ulcer はウガンダの地名に由来する。_M. ulcerans_ の生育条件は between 29-33 deg C とされている。トキシン a unique toxin -- mycolactone を産生し,組織を破壊し免疫反応を阻害する。局所免疫抑制能を有する the mycolactone toxin により,痛みや発熱を伴うことなく疾患が進行する。確定診断は,PCR, direct microscopy, histopathology, and culture などによる。Buruli ulcer を報告しているのは 30カ国以上に及び,アフリカ,南米,アジア,亜西太平洋の熱帯気候地帯が主で,West and Central Africa の中で多くの患者を報告しているのは -- ベニン,カメルーン,コートジボワール,コンゴ民主共和国,ガーナである。アフリカでは 患者のほとんどが 15歳未満であるのに対し,オーストラリアでは 15歳未満は 10 %にすぎず,日本では 19 %が 15歳未満の小児である。_M. ulcerans_ は,淡水,汽水と,湿地帯の土壌中で確認されている。皮膚のキズが,汚染された水や土,植物などに暴露することが,感染経路となりやすい。ヒトからヒトへの感染はないと考えられているが,感染伝播経路は必ずしも明確ではなく,地域によっても大きく異なる可能性がある。ベクター,とりわけ水棲昆虫や蚊族も,場所によっては感染に関わっている可能性がある。オーストラリア南東部沿岸地方では,ポッサム possums の皮膚感染 _M. ulcerans_ skin lesions and/or 便中菌陽性 _M. ulcerans_ PCR-positive feces が検査で確認されており,保有宿主であるかもしれない(20140913.2771412)。早期に診断された症例の 80% が抗生物質の併用療法で治癒するが,診断が遅れると,長期かつコストが嵩む入院と,重大な症状と障害を生む結果となる。リファンピシンに,ストレプトマイシン, クラリスロマイシン, or モキシフロキサシンのいずれかを併用する 8週間の治療と,創傷の外科的な管理が行われる]
写真 Buruli ulcers