2009年1月29日

狂犬病 Wisconsin プロトコール
Ljungan virus スウェーデン、子宮内胎児死亡
食中毒、ヒスタミン、カイコ

● 狂犬病 ブラジル
PRO/AH/EDR> Rabies - Brazil (02): (GO)
Archive Number: 20090129.0410
 投稿者:米・University of Maryland School of Medicine、Michael S Donnenberg, MD、2009年1月29日
"Wisconsin Protocol" に則り治療されたにもかかわらず死亡したブラジル人の少年について、この治療が施されて死亡した患者はこれで少なくとも 3人となった。(ほかの) 2人については MMWR [CDC Morbidity and Mortality Weekly Report] で報告されている。これまで、生存できたのは最初の患者だけであり、この患者からは狂犬病ウイルス確認できていないことを銘記しなければならない。すなわち、女性の驚異的な回復は、治療によるものと言うよりは、defective (不完全な) ウイルスへの感染であったことによる可能性もある。
[Mod.MPP-Pernambuco, Brazil の症例は the Wisconsin protocol の治療により現在も生存している]
[Mod.TY-もしウイルスがかなり defective であったとすると、全く増殖しないと考えられる。残念ながら Wisconsin の患者からは RT-PCR 法によって狂犬病RNAウイルスは検出できず、the rabies virus variant も検出されていない (20041223.3390)。狂犬病ウイルスが分離されなかったため、neurovirulence に関する検査も行えなかった。Wisconsin の患者の血液および髄液中には、非常に高力価の狂犬病抗体が存在したことから、彼女が感染に対して異常に活動性が高く迅速な抗体反応の持ち主で、そのことにより極めて速やかにウイルスが排除され生存につながったとの見方もある。回復した米国の患者を治療した Dr. RE Willoughby など、Wisconsin プロトコールに関わった経験をお持ちの方のコメントを歓迎する]

● Ljungan virus スウェーデン
PRO/AH/EDR> Ljungan virus, intrauterine fetal death - Sweden
Archive Number: 20090129.0400
 投稿者:スウェーデン・Uppsala University、Professor Bo Niklasson、2009年1月28日
Ljungan virus (ユンガンウイルス:パレコウイウルス属 genus _Parechovirus_, family _Picornaviridae_ ピコルナウイルス科) は、実験用マウスにおいて胎児死亡や奇形の原因となることが知られていた。今回このウイルスが、ヒトの子宮内胎児死亡に関係していることの、実験および疫学的根拠が示された。
このウイルスは、スウェーデン中央部の Ljungan River 近郊で捕獲された、野生の保有げっ歯類宿主の1種である the bank vole (_Myodes glareolus_) から分離された。Ljungan virus は米国の野生げっ歯類でも確認されており、同じくげっ歯類を主な保有宿主とする cardioviruses, picornaviruses と関係がある。
Cardioviruses とそのヒトへの病原性については、最近の ProMED でも議論されている。実験用マウスでの研究で、妊娠中に同ウイルスに感染した後ストレスに曝露した母マウスの半数以上で、周産期に子マウスが死亡した。水頭症や無脳症などの中枢神経系の異常も認められた。最近のスウェーデンの研究で、子宮内胎児死亡となった患者 (母親) の胎盤と組織から、免疫組織化学および RT-PCR法により同ウイルスが検出されている。コントロールの正常妊娠 (妊婦) の胎盤では検出されなかった。子宮内胎児死亡の発生と齧歯類の増減サイクルの間に、興味深い関係が認められている。また、米国の1例の子宮内胎児死亡例でも Ljungan virus が確認されている;参考資料(多数、原文参照願います)
[Mod.CP- The genus _Parechovirus_ (パレコウイルス属) は 9つある_Picornaviridae_(ピコルナウイルス科) の属の1つで、2つの種 species, _Human parechovirus_ と _Ljungan virus_ からなる。Virus Taxonomy (The Eighth Report of the International Committee on Taxonomy of Viruses) によると、ヒトパレコウイルス Human parechovirus は呼吸器官と消化器官で増殖する。幼児を中心として感染するが、ほとんどが無症候性と見られている。呼吸器感染や下痢症に加え、ときに中枢神経系の感染症も報告されている。細胞病理学的には、電顕像で核の顆粒とクロマチン分布に異常が見られる。Ljungan virus の分離は、ほとんどが齧歯類への感染例である。パレコウイルスの予測されたタンパク配列は非常に多様性があり divergent 、ピコルナウイルス科の他のウイルスと一致するタンパクは 30%に満たない。スウェーデンと米国で分離された Ljungan virus にも一部に相違点が見られる]

◎ テトロドトキシン中毒 日本

PRO/EDR> Tetrodotoxin poisoning, puffer fish - Japan (Yamagata)
Archive Number: 20090129.0399
 情報源:The Mainichi Daily News、2009年1月27日
26日、山形県鶴岡市の飲食店でふぐ料理を食べた客7人がしびれなどを訴え、市内の病院に運ばれた。うち2人が重体。県警鶴岡署は、ふぐ毒「テトロドトキシン」の食中毒の可能性が高いとみている。男性(68)が意識不明、男性(55) は瞳孔が拡大し意識が混濁している。残る61~69歳の男性5人は軽症。店長は、ふぐ刺しや軽く火を通した白子などを出しており「ふぐ調理師免許は持っていない。生で出したのは初めて。食べたことはないが、うまいと聞いて出した」と話しているという。
[Mod.LL-以下は the "Bad Bug Book" からの引用: 
Tetraodontiformes 目の魚の食中毒は、海洋生物による最も激しい中毒である。フグpufferfish の性腺、肝、腸管、皮膚には、急速に死に至らしめるのに十分な量のテトロドトキシン Tetrodotoxin (TTX) が含まれる。多くのフグの身は、危険なほど有毒ではないことが多い。TTX は多くの種の動物から検出されており、その中には the California newt (イモリ), parrotfish(ブダイ), frogs of the genus _Atelopus_(カエル), the blue-ringed octopus (タコ), starfish (ヒトデ), angelfish (エンゼルフィッシュ), xanthid crabs (カニ) などがいる。TTX の原料 metabolic source は不明で,藻類の原料は確認されていない。最近まで TTX は宿主の代謝産物と考えられていたが、_Vibrionaceae_, _Pseudomonas sp._, and _Photobacterium phosphoreum_ などの複数の種の細菌により tetrodotoxin/anhydrotetrodotoxin が産生されることが報告され、この種のトキシンが細菌由来であるとの見方が有力である。海洋で比較的一般的な,海洋動物に関係する細菌であり、もし確認されれば、このような細菌とより直接的な因果関係にある中毒にとって、重要な知見となる可能性もある。中毒の初発症状は、唇や舌のわずかなしびれで、毒性のあるフグの摂食の 20分から3時間後に発生する。次に顔や四肢の麻痺が進行し、体が軽くなって浮遊する感覚を伴うことがある。頭痛、胃痛、吐き気、下痢と嘔吐も見られる。しばしば、酩酊歩行や歩行困難が見られることも多い。中毒の第2段階では動くことができず、坐位も困難となる。呼吸障害が進行し、発語障害から、徐々に呼吸困難、チアノーゼ、低血圧を発症する。麻痺が進行し、けいれん・精神障害・不整脈も見られる。患者は、ほとんど完全麻痺であるにもかかわらず、意識は保たれており、死の直前まで完全覚醒の場合もある。死亡は 20分から 8時間の間の、主に 4-6時間以内に訪れる]
写真 Image of tetrodotoxin molecule

● 食中毒、ヒスタミン、カイコ タイ

PRO/EDR> Food poisoning, histamine, silkworms - Thailand (Sa Kaeo)
Archive Number: 20090129.0397 
 情報源:Asia One, The Nation/Asia News Network report、2009年1月28日
有害物質のヒスタミンを含むと見られるカイコのフライを食べた、およそ118人が発病し、60人が入院となった。患者の多くは、顔面の腫れ、嘔吐、視力障害、口周囲のしびれ、脱力、発疹などの症状が見られたことが、公衆衛生省の疫学担当者が会議の中で明らかにした。[感染流行の発生時期は示されていないが、恐らく2008年のこと] 
Sa Kaeo にある昆虫取引市場の中心地である the Rong-Klua market から、silkworm カイコのサンプルを抽出し食中毒に関する調査を行った。中国から昆虫を輸入する業者の1人が、カイコのフライを食べ発病し、カイコのサンプルを検査したところ、Rong-Klua market のカイコのほとんどにヒスタミンが含まれていることが判明した。カイコの体内のヒスタミン濃度は 875mg/kgで、米国の食品監視当局によると、魚類では 50mg/kg 以上のヒスタミン濃度は許可されていない。昆虫にヒスタミンの汚染が見つかったのは今回が初めてである。 
[Mod.LL-食品由来のヒスタミンによる中毒は、不十分な冷蔵が行われた魚類のヒスチジンからできたヒスタミンを接種することによるサバ科の魚類の食中毒で起きることが多い。典型的な症状は、顔面紅潮、発汗、発疹、口内異味症 (焼けるあるいはピリピリ)、下痢、喉頭炎 hives、腹部疝痛であり、通常は治療なしで数時間でおさまる。より重症化 (呼吸障害、舌やのどの腫れ、視力障害) すると、抗ヒスタミン薬による治療が必要となることもある。カイコが、どのようにしてヒスタミンという爆弾になったかのメカニズムは、はっきり判らないが、2006年のベトナムからの報告と同じことかも知れない: ベトナム Thanh Hoa 省の150人以上が、国内では一般的な食品である silkworm の食中毒を発症した。前週に露店で購入したものであると現地専門家が説明した。保健当局は、カイコに混ぜられた化学保存料が原因である可能性があり、患者らには、頭痛、めまい、視力障害、腫脹、嘔吐などの症状が見られると話している] 
地図 Sa Kaeo province is in southeastern Thailand 

● リフトバレー熱 メイヨット 2007-2008
PRO/AH/EDR> Rift Valley fever - Mayotte: 2007-2008
Archive Number: 20090129.0409
 情報源:Institut de Veille Sanitaire, Point Epidemiologique Hebdomadaire (BEH) [in French]、2009年1月27日
2007-2008年にかけての、コモロ諸島 Comoro Islands のリフトバレー熱 Rift Valley fever (RVF) 患者についての最初の報告の詳述である ...
結語: Mayotte における the RVF の自国内感染伝播についての初めてとなる本報告により、隣接する東アフリカの沿岸諸国および島嶼国の感染流行に関与するアルボウイルスが、Mayotteに導入・循環されるリスクが明らかになった。
[ModCP- RVF ウイルスは複数の異なる症候群の原因となる。RVF に感染しても多くの場合、無症候性または発熱と肝障害を伴う軽症例となる。しかし 一部の患者では出血熱 (ショックや出血)、脳炎 (頭痛、昏睡、けいれん)、眼症状 などが見られる。発病した患者では、発症時に発熱、全身衰弱、腰痛、めまい、極度の体重減少を経験する。典型的な例では、発症から 2日から 1週間で回復する。RVF で最も多い合併症は網膜炎 (眼球から脳へつながる神経の構造物) である。その結果約 1-10%の患者が何らかの永続的視力障害をきたす。およそ 1%の RVF 感染患者が死亡する。感染した動物の致死率はもっと高い。最も深刻な影響があるのは妊娠した家畜に RVF が感染した場合で、ほぼ 100%流産に終わる。Mayotte の感染源は特定されていないが、コモロ諸島の感染動物から伝播された可能性が高い。コモロ諸島の動物の RVF 感染発生は、この島々がインド洋にあり、タンザニア/モザンビークと北のマダガスカルという RVF 土着感染地域に挟まれていることに原因がある。タンザニアは以前 2007年に RVF 感染流行を経験している:マダガスカルも地方病感染となっていて、1982年にマダガスカルで分離された Zinga ウイルスと命名されたウイルスは、後に RVF ウイルスであることが確認されている]
地図 The Comoro Islands は Comore, Anjouan, Moheli, and Mayotte からなる島嶼で、もとは火山からできている。政治的に二分されており: Comoros, a sovereign state, and Mayotte, an overseas collective of France からなる]

● 炭疽 ウルグアイ
PRO/AH/EDR> Anthrax - Uruguay: (DU)
Archive Number: 20090129.0411
 情報源:AP、2009年1月27日
ウルグアイ中央部ドゥラスノ Durazno の2人の農業労働者 rural laborers が、皮膚炭疽 Anthrax のため入院となったことが、現地当局による明らかにされた。ウルグアイの家畜で地方病感染しており、毎年十数件の感染流行が報告されている。ヒトでの感染は、感染により死亡した動物の皮の取り扱いで発生する。ドゥラスノは、首都モンテビデオMontevideoからおよそ 180km北に位置する。 

● ニューカッスル病 ベリーズ
PRO/AH> Newcastle disease, poultry - Belize (04)
Archive Number: 20090129.0408
 投稿者:ベリーズ・ Belize Agricultural Health Authority Dr Victor Gongora、2009年1月28日
当初、同氏は米国もしくは欧州製のニューカッスル病ワクチンしか使用していないとしていたが、現地報道では、グアテマラ製ワクチンの使用が伝えられている。 庭先養鶏農家にとって、市販のワクチンは用量が多すぎるため、もっと少量のワクチンを探さなければならない。リスク解析を行うため、グアテマラの研究所を訪れグアテマラ認可研究所により Newcastle B1 live strain 150接種分の使用が許可された。 
[Mod.MHJ-ベリーズで使用されているワクチンについて明らかになった。細かなことかも知れないが、全てのニューカッスル病ワクチンが同じように equal 作製されているわけではなく、生ワクチンである。ベリーズ政府当局はまず、グアテマラの供給源をチェックするのが先決だろう。過去、庭先飼育の家禽がニューカッスル病の保有宿主であったが、1970年代前半に突然オウムの数が増え、米国への輸出の middle men 仲介業者? への売却まで期間、野生のオウムが捕獲されて村内に留め置かれていた。同じ疫学様式で、アフリカのニューカッスルウイルスが欧州に持ち込まれている]
関連項目 
Newcastle disease, poultry - Belize (03) 20090128.0391

● 黄熱 ベネズエラ、サル
PRO/AH/EDR> Yellow fever - South America (13): Venezuela (AR), monkeys, susp.
Archive Number: 20090129.0407
 情報源:Entorno Inteligente.com [in Spanish]、2009年1月27日
サモラ Zamora [アラグア Aragua state] 市で 8匹のサルの死亡が確認されたことを受け、アラグア州の専門家らは州南部のこの地域での黄熱 yellow fever [YF] 感染流行発生への対応に協力し、大打撃の被害のリスクへの警戒を呼びかけている。アラグア州にはウイルスのベクターである蚊族の _Anopheles_ mosquitoes (ハマダラカ) と _Aedes aegypti_ (ネッタイシマカ) のいずれも定着している。[Mod.TY-このコメントは正しくなく、森林型 YF ウイルスの感染伝播は _Haemagogus janthinomys_ および _Sabethes_ spp. によるものであって、_Anopheles_ spp. ではない] .... 
ベネズエラの黄熱感染発生は 3 [4 ?] ヶ所である 
 - San Camilo in Apure* [state], 1973年以降発生なし (1995年12月にコロンビアSaravenaの患者1人の死者の報告があるが) 
 - Lake Maracaibo [Zulia* state] の南岸, 1980年以降発生なし 
 - Guayana 1980年以降発生がなかったが、1998年に the Parima region of Amazonas* state で流行発生 
 - 1999年、the Canaima region of Bolivar で患者1名 
最後に urban yellow feverが発生したのは 1918年の Coro市, Falcon state である
[Mod.TY-疫学的に確定されたとあるが、サルの死亡に関する検査による黄熱感染の確定は示されていない。この報告には、ベネズエラで発生中のさらに新しいサルでの感染流行や、他州のヒトの黄熱患者発生に触れていないのは不思議である] 
関連項目 20090122.0285 
地図 Aragua state in north-central Venezuela

● White-nose syndrome 米国、コウモリ
PRO/AH/EDR> White-nose syndrome, bats - USA: (Northeast)
Archive Number: 20090129.0401
[1] Mysterious, deadly bat disease found in New Jersey 
 情報源: Newsday.com, Associated Press (AP) report 、2009年1月24日
New England で数千匹のコウモリを死亡させた原因不明の病気が、ニュージャージー New Jersey 州にも広がり、野生動物当局者は困惑し拡大を懸念している。この毛の生えた昆虫の捕食者の冬の間のねぐらとなっている Morris County の洞穴 2ヶ所で数百匹のコウモリが死亡していることが明らかになった。
[2] 別の場所にも発生している
 投稿者:米政府の匿名の研究者、2009年1月27日
the white-nose syndrome (WNS) は、2008-9年の冬の NJ州での発生のほかに、ずっと離れた場所でも発生している ... the US Fish & Wildlife Service  から最近出された、寒冷気候で成長・増殖可能な真菌 the psychrophilic fungus と、その発生が集中した地域からの感染拡大の報告では、この好冷性の真菌が原因であり、今後も拡大が続くとしている。欧州の一部のコウモリでも同じ真菌が確認されているが、死亡にはつながっていない。