2009年9月10日

ダニ媒介性脳炎-デンマーク 初報告
インフルエンザパンデミック (H1N1)2009 (44):レセプターとの結合性
ヘンドラウイルス、ヒト、ウマ-オーストラリア(05)

● ダニ媒介性脳炎-デンマーク 初報告
PRO/AH/EDR> Tick-borne encephalitis - Denmark: (SL), 1st cases  
Archive Number: 20090910.3195 
 情報源:Eurosurveillance, Volume 14, Issue 36, article 1 、2009年9月10日。 
8月、ボーンホルム Bornholm 島以外のデンマークとしては初めての、ダニ媒介性脳炎 Tick-borne encephalitis が確認された。スカンジナビア Scandinavia 地域で tick-borne encephalitis (TBE ダニ媒介性脳炎) の発生数が増加しており、発生地域も拡大しつつある。デンマーク北部 Zealand での 2例のダニ刺咬後の入院患者が発生し、急性期の血清検査で、抗 tick-borne encephalitis virus (TBEV ダニ媒介性脳炎ウイルス) 特異 IgGおよび IgM抗体が検出され RT-PCR法 によりウイルスが同定された。ボーンホルム島 Bornholm island 以外のデンマークにおいて、_Ixodes ricinus_(ダニ)の TBEV が発見され、患者が発生したのは初めてのことであった
討論 
今回、ボーホルム島以外のデンマークで初めての 2例の TBE患者が発生した。同じ地域内で採取された _I. ricinus_ nymph  (若虫) で TBEV complex も確認され、この時期に患者に感染伝播したことが確認された。いずれの患者にも、典型的な 2相性の病期が認められた; すなわち、現行のインフルエンザ A(H1N1)v ウイルスと間違われやすいインフルエンザ様症状で発病し、次いで髄膜脳炎発症後に神経学的兆候 neurological sequelae (めまい、倦怠感) が発生した。急性期の血清中で抗 TBE IgG および M抗体が検出されている。2008年の患者については、およそ 1年後の回復期の血清を入手することができており、予想通り IgGは陽性で IgMは陰性化している。定量的 ELISA検査による中和抗体は陽性であった。中和抗体の発現までには長期間を要するため、急性期には存在しないのが通例である。欧州において TBEの発生範囲は拡大するものと考えられており、ノロジカ roe deer での血清学的調査から、デンマークへの感染拡大も予測されていた。2008年と 2009年に 2例の患者が確認されたことから、TBEV は長期間気づかれないまま存在していたものと考えられる。デンマークの法律では TBEに報告義務はないが、TBEV の診断は the Department of Virology at Statens Serum Institut に限られており、これらの症例以前に、デンマーク国内でボーンホルム島以外では TBE患者が確認されていなかった。組織的なダニの捕獲作業を進めており、現在までのところ Zealand の可能性があると見られる 2か所のうちの 1か所で確認されているだけである。PCR 検査法は TBEV complex に特異的ではあるが、さらにダニから分離されたウイルスを培養または増幅し、確定および分子疫学的検査を進めている 
[Mod.CP- TBE の原因となるダニ媒介性脳炎ウイルスは 3種類ある: Western European TBE virus, Far Eastern TBE virus and Siberian TBE virus。Western European TBE (または Central European encephalitis) は、西欧-中欧各国に地方感染し、その範囲が拡大しつつある。オーストリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、チェコ、スロバキア、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スイス、ロシア西部、ウクライナ、ベラルーシ、クロアチア、スロベニアの森林および山岳地方には、特に多い。より発生が少ないのは、デンマーク、フランス、リヒテンシュタイン、イタリア、ノルウェー、オーランド諸島 Aland archipelago とそのフィンランド側沿岸部、スウェーデン南部の沿岸地方(from Uppsala to Karlshamn)である。春の終わり頃から初秋にかけて、毎年数千人の TBE患者が発生し、西欧諸国では過去 5年間 [200-2005] に年平均 3000人以上の患者を記録している。このタイプの TBEは _I. ricinus_ が伝播し、従って主要な保有動物である voles とダニの数が増える時期(5月から6月と、9月から10月)に一致して流行することが多い。2006年半ばの時点で the British Isles(英国内)では TBEの症例が報告されたことはないが、England, Wales or Northern Ireland に診断もしくは報告されていない輸入感染例がいる可能性がある。TBE に対する予防接種は、地方感染地域の住民にとって最も効果的な予防対策と考えられる。オーストリアでは 1982年以降全国的な予防接種キャンペーンに採用されていて、毎年続けられている。中欧諸国でも広く TBE ワクチン接種が行われている。これらの地域への旅行者にとっても考慮すべきワクチンである] 

● インフルエンザパンデミック (H1N1)2009 (44):レセプターとの結合性

PRO/AH> Influenza pandemic (H1N1) 2009 (44): receptor binding 20090910.3192 
 情報源:The Times onlline 、2009年9月12日。 
豚インフルエンザ [インフルエンザパンデミック (H1N1)2009] ウイルスは、季節性インフルエンザと比べて肺の深い場所 (奥) の細胞に感染するため、感染した患者でより重症の合併症が起きやすいことが、研究により示唆されている。雑誌 Nature Biotechnology に掲載されたこの研究は、第一線の医師らからの報告を、初めて検査結果から裏付ける報告となった。季節性インフルエンザウイルスは、ほとんど例外なく鼻・のど・上気道の細胞だけに付着し、鼻水・咽頭痛・乾いた咳といったインフルエンザの症状を引き起こす。しかしこの研究では、インフルエンザパンデミック (H1N1)2009 ウイルスは、より広範囲のレセプターに結合することが可能であるため、肺の奥にある細胞に到達することが明らかにされた。折しも本日(12日)、英国政府の主任科学アドバイザーが来月ごろに豚インフルエンザはピークを迎えるとの見方を示した。感染の第 2波は最も早くても 10月以前ではないだろうと述べた。研究結果や疫学モデルからウイルスは弱まると見られていたとも述べた。このあと何度か感染の波が訪れるが、次の波が今後起きるどの波よりも大きい可能性が高いと University of Surrey の教授が述べている。英国政府当局は先週、豚インフルエンザに関する見通しを変更し、英国内で最悪の場合の死者が 19000人と予想している。以前は死者 65000人との見方を示していた。しかし依然、人口の最大 30%が発病すると見られている。ほとんどの患者が 1週間程度で回復する一方で、一部は二次感染や肺炎を発症し死亡につながることもある。英国内では少なくとも 70人が感染により死亡し、数百人が入院治療を必要とした。今回の研究で Imperial College London の教授らは、86種類のレセプターに季節性インフルエンザとパンデミックインフルエンザを接触させる実験を行った。季節性インフルエンザは上気道に見られる種類のレセプターだけに定着したが、インフルエンザパンデミック (H1N1)2009 ウイルスは、弱いながらも肺の中にあるレセプターにも定着する能力を持っていた。このことによって、より重症な肺の感染症が引き起こされる。もしも今後インフルエンザウイルスの変異が起こり、肺内の深い位置にあるレセプターへのより強固な接着が可能になれば、さらに重症化する患者が増えると考えられ、今後このような変化に対する注意深い監視が必要と述べた。一部の専門家からは、第 2波発生時の患者受け入れに対する NHS の集中治療用のベッド不足が指摘されている。しかしアウトブレイクの程度は、それ以前にいかに多くのヒトが感染していたかにかかっているとも指摘されている。報告されていない患者数を推定することは困難であり、ちょっと鼻をすすったり、いらいらしていた程度でも、実際にはウイルスに感染していたというヒトもいるはずである。これまでに使用されたタミフル oseltamivir は 45万人分で、インフルエンザと確定診断された患者の 10倍である。Beddington 教授は抗ウイルス薬で多数の人々を治療することに反対の立場をとっていたが、Scientific Advisory Group for Emergencies (Sage) では、タミフルを自由に処方することについて意見が分かれた。内閣に助言を行うグループのメンバーは耐性のリスクを懸念しているが、ウイルスが耐性を獲得したとの証拠は得られていない。 
原著 Nature Biotechnology, (subscription required) September 2009, Volume 27 No 9, - pp797 - 799.: "Receptor-binding specificity of pandemic influenza A (H1N1) 2009 virus determined by carbohydrate microarray"

● マラリア P. knowlesi -アジア

PRO/AH> Malaria, P. knowlesi - Asia: background 20090910.3190 
 情報源:BBC News 、2009年9月9日。 
新型のマラリアがヒトを死亡させる恐れがあることが、研究によって明らかになった。これまで寄生虫の _P. knowlesi_ は、サルだけに感染するものと考えられてきた。しかし、最近マレーシアで広くヒトにも感染が起きていることが明らかとなり、最新の研究では直ちに治療が行われない場合には死亡する可能性があることが確認された。この国際チームによる報告は Clinical Infectious Diseases に掲載された。この新たな疾患は東南アジアだけに集中して発生しているが、この地域への旅行者の間で、まもなく西側諸国の患者が発生することになると予想している。マラリアにより毎年 100万人以上が死亡している。マラリア原虫が原因で、感染性蚊族の刺咬によって血流内に注入される。ヒトへの感染がおきやすい 4種類が知られているマラリアのうち、熱帯熱マラリア _P. falciparum_ は主にアフリカに多く、もっとも危険なマラリアである。世界中の熱帯および亜熱帯地域で見られる、もう1つのマラリアの 4日熱マラリア _P. malariae_ の症状はより軽症である。_P. knowlesi_ は、サルの、特に東南アジアの熱帯雨林に住む long-tailed and pig-tailed macaques だけに感染すると考えられてきた。しかしマレーシア大学の研究者らによる調査で、ヒトにおいて重症化する可能性があることが判明した。この最新の研究によると、顕微鏡の検査では _P. knowlesi_  が _P. malariae_ (4日熱マラリア)と間違われることが多いとされている。
増殖のスピード 
しかし近縁関係の種と異なり、_P. knowlesi_ は血中で 24時間ごとに増殖を繰り返す能力があり、感染が死亡につながる可能性があることを意味する。早期に診断し治療を開始することが重要となる。2006年7月から 2008年1月までの期間中に、ボルネオのマレーシアにあるサラワク Sarawak の病院に入院となった 150人以上について検査を行い、感染者の 2/3以上が _P. knowlesi_ 感染で占められていることを確認した。患者の多くは合併症を起こさずに chloroquine や primaquine といった薬剤による治療に反応した。しかし 10人中 1人は、呼吸困難や腎不全といった合併症を併発し 2人が死亡した。致死率はわずか 2%以下であったが、_P. knowlesi_ が熱帯熱マラリア _P. falciparum_ malaria と同様致死性であることが判明した。研究の規模が小さいため、正確な致死率を判定することは難しいとしている。 
血小板減少 
すべての_P. knowlesi_ 患者で、他の型のマラリアの場合に比べかなり低い血小板減少が認められた。しかし、血小板は血液凝固に必要であるにもかかわらず、異常出血や凝固異常の問題は発生しなかった。研究者らは、この血小板数の減少が _P. knowlesi_ 感染の診断に活かせるのではないかと考えている。 "東南アジアへの旅行者が増加しており、西側諸国でも将来より多くの感染患者が発生するだろう。_P. knowlesi_ の発生国への旅行者を診察する際には、_P. knowlesi_ malaria という疾患、臨床症状、急速な重症化の経過の可能性について、熟知しておかなければならない"と、研究者は述べている。 
原著:Clinical and laboratory features of human _Plasmodium knowlesi_ infection. Clin Infect Dis. 2009 Sep 15; 49: 852-60 (abstract available)  
[Mod.EP- 現在のマラリア迅速診断キットでは _P. knowlesi_ は検出されない]

● ヘンドラウイルス-オーストラリア
PRO/AH/EDR> Hendra virus, human, equine - Australia (05): (QL) 20090910.3189
[1] 1頭のウマのヘンドラウイルス感染が判明した 
 情報源: Queensland Government, Department of Primary Industries and Fisheries 、2009年9月9日。 
ロックハンプトン Rockhampton 近郊の Cawarral のヘンドラウイルス Hendra virus に加え、Biosecurity Queensland 当局は North Queensland の Bowen 郊外の1か所の農場でのヘンドラウイルス感染症例への対応に追われている。8日、病馬1頭の検査の結果、ヘンドラウイルスが陽性であることが判明し、当局は直ちに感染対策を実施している。 
[2] Eight potential Hendra infections found 
 情報源: The Australian, Australian Associated Press (AAP) report 、2009年9月9日。 
クイーンズランド Queensland 州北部で 1頭のウマのヘンドラウイルス検査が陽性となったため、当局は 8人について症状の有無についての監視を強めている。ボーウェン Bowen 郊外にあるこの農場では閉鎖され、感染した動物と接触のあった 6人の健康状態が監視されている。ウマは農場のメラレウカ melaleuca [myrtle family] trees に来ていたコウモリからウイルスに感染したと見られている。獣医師は 2時間以上かけて防護体制を取って調査に当たったと述べた。しかし彼は先月死亡した、同じ農場の別のウマの治療の際にウイルスに暴露したのではないかと心配している。防護服は着用したものの、ヘンドラウイルス感染の症状ではなかったため、今回ほど注意深くなかったとしている。1994年以来、ヘンドラウイルス感染症例は今回で 13例目となった。ロックハンプトンの獣医師 1名が 7月28日にCawarral propertyで治療を行った際に感染馬からウイルスに感染し、9月1日に死亡している。10日に葬儀が行われる。 
[Mod.TG- 暴露した人々に対しては、抗ウイルス薬もしくは併用療法による治療が望まれる]

● 炭疽-イタリア ヤギ
PRO/AH/EDR> Anthrax, caprine - Italy: (Campania) 20090910.3193
 投稿者:伊・Dr. Antonio Fasanella、2009年9月11日。 
ナポリ Naples からおよそ 70kmの Benevento Province (Campania Region - South Italy) で、8月25日 1頭のヤギが死亡した [near the village of Bonea]。検査により炭疽菌 _Bacillus anthracis_が確認された。現在、遺伝型の解析が行われている。農業関係者らは、ヤギ 11頭が姿を消したと主張しており、恐らく放牧中に死亡したと考えられ、詳細な疫学情報は得られていない。感染流行は山岳地帯に拡大しているため、死亡した動物の発見は難しい。緊急にワクチン接種が開始されている。Benevento Province は炭疽の endzootic (動物での地方感染)地域にあるが、the Benevento Province における genotype of _Bacillus anthracis_ は不明である。 
地図 Italy

● ウマ原虫性骨髄脳炎-米国
PRO/AH/EDR> Equine protozoal myeloencephalitis - USA: (TN) 20090910.3191
 情報源:The Daily Post-Athenian 、2009年9月8日。 
2009年5月、16歳の quarterhorse が barrel-racing events に出場させられた。9月8日、ルイビル Louisville の Countryside Veterinary Services のスタッフらが、健康なウマでも数週間で衰弱するウマの病気の治療に当たる中、このウマが病気と闘っている。このウマはbarrel-racing horse で、テネシー Tennessee 州周辺では有名なウマであると所有者が述べた。3週間前にこのウマが他のウマについていけなくなっていることに気づかれた。その後、発熱と発汗が認められ、外に出して冷やしていたが、鼻や口が緑色に変色していたため、獣医師に相談した。獣医師は choking 窒息の治療を行ったが、さらに重症化した。テネシー州立大学獣医学科の獣医師は equine protozoal myeloencephalitis (EPM) もしくは rabies と診断した
[ModTG- Equine protozoal myeloencephalitis (EPM) は、南北アメリカのウマにとってありふれた神経疾患であり、全米の中の隣接する 48州、カナダ南部、中南米各国から報告されているが、他の国々からの報告は散発的である。Most cases of EPM は Apicomplexa protozoan(原虫)の1種の  _Sarcocystis neurona_である]