2010年8月3日

ラクロス脳炎 米国
◎ 紅斑熱 ブラジル、死亡例

● ラクロス脳炎 米国
PRO/AH/EDR> La Crosse encephalitis - USA: (MS)
Archive Number:  20100803.2621
 情報源:News 3、2010年8月2日
モントゴメリ Montgomery County から、蚊族媒介性ラクロス脳炎 LaCrosse encephalitis の患者1名が報告された。ミシシッピ州保健局 The Mississippi State Department of Health によると、ウエストナイルウイルス感染 West Nile virus [infection] 類似の疾患である。LaCrosse encephalitis の患者 [特に未就学児] では、発熱、頭痛、嘔吐、不機嫌、ときにけいれんなどの症状が認められる。州内での発生は 2008年以来のことであった。
[Mod.TY- より発生の多い北部中西部 the upper Midwest に比べ、ミシシッピにおける La Crosse 脳炎の発生はまれである。
20080717.2164 からの引用 : La Crosse virus (LACV) は the California serogroup of viruses(ブニヤウイルス科 the _Bunyaviridae_ family)に属する。ほとんどは無症候性または軽症であるが、けいれんや昏睡を生じることもある。しかし致死率は 1%以下である。 米国のとくに the upper midwestern states では毎年 70例程度の有症者が報告されており、そのほとんどが小児である。ベクターは _Aedes triseriatus_ mosquitoes で経卵感染し、げっ歯類 forest rodents (chipmunks _Tamias striatus_ and squirrels _Sciurus carolinensis_) が増幅宿主となっている。近年、the Asian tiger mosquito, _Aedes albopictus_ からもウイルスが分離されている。これらの蚊族は西半球に生息する]
地図 Mississippi showing counties

◎ 紅斑熱 ブラジル
PRO/EDR> Spotted fever, fatal - Brazil: (SP) 20100803.2605
 情報源: EPTV [in Portuguese]、2010年7月27日
The Department of Health of Hortolandia [サンパウロ Sao Paulo 州] で27日、14歳の患者が star tick ダニに媒介される紅斑熱 spotted fever disease により死亡したことを確認した。6月後半に死亡した Hortolandia 在住のこの 10代の患者は、Campinas の病院に入院した
[Mod.LJS- 効果的な対策のない疾患である。Brazilian spotted fever は野生に局地的に発生する疾患であるが、農村部や都市郊外でも発生し、ベクターのコントロールは非常に困難である。郊外地域の保清や、ウマやウシ、そしてカピバラ capybara とヒトとの間に一定の距離を置くことなどが感染リスクを減少させるものの、リスク除去には至らない。晩秋から早春までのブラジル南東部の乾期にダニは増生する。]
[Mod.LL- Brazilian spotted fever はポルトガル語で "febre maculosa brasileira" と呼ばれており、Rocky Mountain spotted fever とはわずかな違いを除いて非常に類似する疾患である。病原体の _Rickettsia ricketsii_ はアメリカの相当する種と identical と考えられている。1929年にこの疾患がはじめて報告されているが、1960-1970年代には報告されなくなり、その理由は今も分かっていない。1985年以降、サンパウロ Sao Paulo とミナスジェライス Minas Gerais 州での患者が増え始め、リオデジャネイロ Rio de Janeiro やエスピリトサント Espirito Santo 州、南のサンカタリナ Santa Catarina 州でも患者が発生している。The main vector tick は _Amblyomma cajennense_であるが、_A. cooperii_ も関係すると見られている]

● チクングニア熱 ミャンマー
PRO/EDR> Chikungunya (23): Myanmar 20100803.2619
 情報源: The Myanmar Times 、2010年8月2日
2010年、保健当局者は、デング熱に似た症状のあまり知られていないチクングニア熱 Chikungunya の患者が激増していると報告している。 Ayeyarwady Division, Yangon Division, Rakhine State and Shan State で、最も著しい増加が見られると当局や住民が述べている。2009年にヤンゴン Yangon ではじめてのチクングニア熱患者が報告されているが 2010年の雨期開始後非常に数が増えている...
[Mod.TY- ミャンマーをはじめとする東南アジアでは Chikungunya virus が常在する。(記事の中の)タイからミャンマーに波及したとする根拠は示されていない。2010年のこれまでにミャンマーで報告されている Chikungunya virus infections は、今も outbreak が続いている]
地図 Myanmar showing the administrative divisions  

● ポリオ アンゴラ
PRO/EDR> Poliomyelitis - worldwide (17): Angola, RFI 20100803.2616
 情報源: Radio Nacional de Angola [trans.]、2010年8月3日
Minister says there isn't an outbreak of polio
家族女性躍進相 The Minister for Family and Women's Promotion は、国内で報告されているポリオ Poliomyelitis 患者はアウトブレイクには至らず、鎮静化していると発言した。アンゴラにはポリオ感染流行はなく感染は下火であると、中国・上海万博の世界女性デー週間訪問中に述べた。2010年初以来アンゴラでは、17例のポリオ感染患者が報告されている。いずれも首都ルアンダ Luanda の患者である。
[Mod.MPP- このニュース記事では、2010年初以来のアンゴラで発生したポリオ患者は   17例とされている。7月19日の最新の ProMED mail 20100719.2426 からおよそ2週間のうちに2人の患者が増えたことになる。27日の最新の the polio eradication website 上では、6月16日に最後の患者が発生し、合計16例が確定診断されている。ポリオ根絶のために重要な対策の1つが "acute flaccid paralysis" (AFP 急性弛緩性麻痺) のサーベイランスで、その国の人口 10万人あたり 1人以上の非ポリオ AFP 発見があれば、そのサーベイランスシステムは良く機能しているという指標になる。the WHO Global Polio Eradication Initiative website(7月30日現在)によると、2010年初から 203例の AFP の報告があり、人口10万対 3.6人の割合で非ポリオ AFP が発見され、94%の AFP が確定診断検査に適切な検体を採取されていた。確定診断例は16例であった]

● B型・C型肝炎 米国:院内感染、歯科クリニック
PRO/EDR> Hepatitis B & C, nosocomial, dental clinic - USA: (MO), RFI 20100803.2614
 情報源: The St Louis American 、2010年7月30日
2 Missouri (MO) veterans are infected with hepatitis B, 2 are hepatitis C positive
The Veteran's Administration (VA 退役軍人協会) は30日、St. Louis(Missouri ミズーリ州)の the John Cochran VA Hospital の歯科患者らの検査結果を公表した。28日、2名のB型肝炎検査と、別の2名のC型肝炎検査が陽性となった。先月 [2010年6月] 後半に VA は、デンタルクリニックでの消毒処置が不十分であるため、1812人の患者に B型肝炎、C型肝炎および HIV に感染の可能性があると報告していた

● ペスト、腺ペスト ペルー
PRO/AH/EDR> Plague, bubonic - Peru (02): (LL), bubonic, pneumonic 20100803.2608
 情報源: Associated Press (AP) 、2010年8月2日
ペルー政府保健相は、北部沿岸地域で 14歳の少年がペスト Plague 感染流行により死亡し、ほか 31人以上の感染者がいると報告した。当局はリマ Lima の北西 520kmの Ascope province [La Libertad region] から搬出される砂糖と魚製品のスクリーニングを行っている。人気のシカーナ Chicama ビーチからそう遠くない場所である。ダウン症であったこの少年は、26日に腺ペストにより死亡した。患者のほとんどが腺ペストであり、肺ペストが 4人いると説明されている。腺ペストはノミの刺咬により感染するが、肺ペストは空気感染をおこす。早期に抗生物質で治療すれば治癒が見込める。ペルーにおける初めての流行は 1903年のことで、最近では 1994年に発生し 35人が死亡している。
[Mod.LL- Ascope province はペルー北西部の the region of La Libertad にあり、同じく最近ペストが報告された Trujillo province と境界を接している。肺ペストの患者が、直接ヒト-ヒト感染により感染したのか、腺ペストから進展したかについてはわからない。ちなみに、2010年4月に Chicama district of Ascope province で腺ペストの流行が報告されており、記事の中でも Chicama beach との近接性に触れられていることから、今回の患者がその一部であった可能性もある]
関連項目 20100428.1373 [厚労省・検疫所 FORTH]
地図 Maps of Peru

● 大腸菌 ST131 米国 :薬剤耐性(2件)
PRO/AH/EDR> E. coli ST131 - USA: emerging drug-resistant pathogen worldwide 20100803.2607
 情報源:Infectious Diseases Society of America 、2010年7月30日
新たに発生した薬剤耐性大腸菌 E. coli が、重篤な疾患の原因となっているとの研究結果が、1日付けのオンライン版 Clinical Infectious Diseases 上で明らかになった。The new strain ST131 は 2007年の米国内での抗生物質耐性大腸菌感染の主な原因菌であった。同菌は、全米を含め世界中で報告されている。2007年に米国内の入院患者から分離された 54件の ST131 isolates は、fluoroquinolone or extended-spectrum cephalosporin 耐性株の 67-69% を占めていた

PRO/ERR> E. coli ST131 - USA: emerging drug-resistant pathogen, corr. 20100804.2635
 情報源:ProMED-mail、2010年8月4日
20100803.2607 の中で moderator のコメントの2段目については、以下が正しい。
このクローン clone については、世界中で報告が増えており、extended-spectrum beta-lactamase (ESBL) 産生性の、市中尿路感染や菌血症の重要な病原体となっている。This isolate ST (sequence type) 131 は O25:H4 (O is the somatic antigen and H is the flagellar antigen) の1つで、 CTX-M-15 やほか多数の耐性物質を産生し、 fluoroquinolone をはじめ多くの抗微生物薬に耐性を示す。これまでのところ、この isolates は、ertapenem, imipenem, and meropenem といったカルバペネム系のベータラクタム剤には感受性が残されている。

● 腸炎ビブリオ 米国、カキ
PRO/AH/EDR> Vibrio parahaemolyticus, oysters - USA: (WA) 20100803.2604
 情報源: Washington State Department of Health news release、2010年7月30日
生ガキを食べたことによる多数の患者が発生し、検査機関で細菌が同定されたことから、州保健当局は Hood Canal の2か所の養殖地域を閉鎖した。南の Hoodsport から東の the boat launch area at Twanoh State Park までの Hood Canal Six に対する検査の結果、腸炎ビブリオの原因となる_Vibrioparahaemolyticus_ が確認された。2010年夏に関してはこの地域のカキに関係する患者は発生していないが、周囲の Clark Creek (about a mile north of Hoodsport) から北の Cummings Point までの Hood Canal Five で、少なくとも 4人のビブリオ症患者が確認されている。これら2か所の地域について、同菌による汚染を低減する目的で閉鎖した。ワシントン Washington 州では毎年 50件程度のビブリオ症患者が発生する
[Mod.LL- _Vibrio parahaemolyticus_ は、自然界の海水中の常在菌 (同菌の存在が汚水混入を意味しない点で、サルモネラや大腸菌とは異なる)で、水温の高い the American Gulf Coast などの地域で見られることが多いが、より北方の水温の上昇がカキ関連の_V. parahaemolyticus_ に関係しているのかもしれない]
参考 Outbreak of _Vibrio parahaemolyticus_ Gastroenteritis Associated with Alaskan Oysters. N Engl J Med 2005; 353: 1463-70;アラスカのカキ Alaskan oysters さえも、ビブリオ菌に関係するとの内容

● 東部ウマ脳炎 米国
PRO/AH/EDR> Eastern equine encephalitis - USA (12): (MA) 20100803.2620
 情報源: Boston.com 、2010年8月3日
州知事は 8月4日、東部ウマ脳炎 eastern equine encephalitis [virus] を伝播する蚊族駆除のため、マサチューセッツ Massachusetts 州南東部地域に、飛行機からの噴霧消毒を行うことを発表した。Bristol and Plymouth counties 上空を飛ぶこの飛行機は、chrysanthemum flower(菊)の成分を化学的に合成したスミスリン sumithrin と呼ばれる殺虫剤を噴霧する。これは 7月中に予想を上回る数の蚊族のウイルス感染が確認されたことを受けた決定である。2008年以降、ヒトでの感染例は確認されていない
地図 Bristol and Plymouth counties, Massachusetts

● ヤブカ属、輸入 オランダ
PRO/EDR> Aedes mosquitoes, imported - Netherlands: (NB North Brabant) 20100803.2603
 情報源: Dutch News.nl 、2010年8月2日
ブラバント Brabant での発生が確認され公衆衛生上の問題となっていた3種の外来種の蚊族駆除の取り組みが始まった。同地域の業者が輸入した古タイヤから、the Asian tiger mosquito [_Aedes albopictus_] ヒトスジシマカ, the American rock pool mosquito [probably _Aedes (reclassified as _Ochlerotatus_) atropalpus_], and the yellow fever mosquito [_Aedes aegypti_ ネッタイシマカ] が発見された。オランダ国内では、デング熱、ウエストナイル熱、黄熱などのウイルスを伝播するこれらの蚊族が確認されたことはなかった。外来種の蚊族駆除の経験を持つフランスの専門家らの協力により、殺虫剤を用いた成虫とボウフラの駆除が行われる。この地域の住民や就業者に対しても、情報提供が行われることになっている。tiger mosquitos が持ち込まれるリスクがあるため、2006年以降、輸入される竹材のチェックが強化されている。
写真 Photos of the 3 species: Aedes albopictus Ochlerotatus atropalpus Aedes aegypti 
地図 North Brabant in the south of the Netherlands 

● 原因不明の疾患、ブタ カンボジア
PRO/AH/EDR> Undiagnosed disease, porcine - Cambodia: RFI 20100803.2618
 情報源: VOANEWS、2010年8月2日
遠く離れた Battambang および Kampong Cham 県で多数のブタが死亡し、南部 Kampot 県でも 150頭近いブタが原因不明の病気で死亡している。当局は細菌感染であって、豚インフルエンザ H1N1である可能性は低いとの見方を明らかにした。2日、当局者が Kampot のブタから血液採取を開始したが、原因はつかめていない
[Mod.AS-細菌感染との見方をとっている理由もよくわからない]

● ボツリヌス症、鳥類 スペイン
PRO/AH/EDR> Botulism, avian - Spain: (CM), water birds, susp., RFI 20100803.2615
 情報源:adn.es [Spanish trans.]、2010年8月2日
Possible outbreak of botulism in birds in Laguna Navaseca (Ciudad Real) Castilla-La Mancha, Spain
the Agriculture and Environment (Ministry 農業局) of Castilla-La Mancha の職員らが、the National Park of Las Tablas de Daimiel (Ciudad Real) から数kmの Navaseca 湖で死亡している鳥類の検体採取を行った。この湖には the Daimiel Wastewater station(汚水処理場)で処理された水が流れ込んでおり、最近では the National Park of Las Tablas de Navaseca の水場が枯渇したあとの鳥たちの生息場所となっていた。複数の情報によると、死因はボツリヌス菌 _Clostridium botulinum_ 産生毒による avian botulism と見られている ... colored duck (_Netta Rufina_), shoveler (_Anas clypeata_), Shelduck (_Tadorna Tadorna_) and Gadwall (_Anas strepera_) などに被害が出ている