2012

Heartland virus 米国
狂犬病 ウイルスの感染過程
アルゼンチン出血熱
シックハウス症候群 米国
E 型肝炎
セレウス菌
髄膜炎菌性髄膜炎 B 型,ワクチン
ヘビ毒(咬症)
イスラエル紅斑熱
クリミアコンゴ出血熱

Heartland virus 米国 20120830.1274007 8月30日
原著 A New Phlebovirus Associated with Severe Febrile Illness in Missouri. N Engl J Med 2012; 367:834-841 30 Aug 2012
2009年、高熱、倦怠感、貧血、肝酵素上昇のあるミズーリ州の農業従事者が病院に運ばれたときに、医師らはダニによる病気を疑った。2人の男性は多数のダニ刺咬を訴えていた。エーリッヒ症の症状そのものだったが、血液を培養しても菌は確認されなかった。このことがきっかけとなり、全く新しいウイルスが、 the CDC's Viral Special Pathogens branch の最新の遺伝子解析により発見にされた。これまでのところ、 この新型ウイルスの患者は the Missouri men だけで、重症化する危険のあるブニヤウイルス科、フレボウイルスウイルス phlebovirus の 1種とされている。ハンタウイルス、クリミアコンゴ出血熱も同グループのウイルスである。患者らが治療を受けた Heartland Regional Medical Center in St. Joseph, Mo. に因んで、"heartland virus" と命名された。ダニが媒介するフレボウイルスでヒトに感染することが知られているのは、SFTSV -- severe fever with thrombocytopenia syndrome virus (重症熱性血小板減少症候群ウイルス)-- と呼ばれているウイルスだけで、中国中 ・ 北東部で最近確認されている。この新たなウイルスは,電子顕微鏡と next-generation genomic sequencing including total RNA analysis を駆使して発見された。感染様式はまだ正確には分かっていないが、ダニによる可能性もあり,the Lone Star tick, _Amblioma americanum_ が疑われているが、他の生物である可能性も否定できない。また、保有宿主の動物かも分かっていない。感染した 2人の男性は 2週間近く入院し、回復までに数ヶ月を要した。うち 1人は感染から 3年後の今も短期記憶の障害、易疲労、頭痛などに悩まされている。70歳となったもう 1人の男性は、現在健康である。

狂犬病 ウイルスの感染過程 20120805.1229534 8月5日

Human rabies: a disease of complex neuropathogenetic mechanisms and diagnostic challenges. Lancet Neurol. 2002 Jun;1(2):101-9 より、
"狂犬病ウイルスが創部への定着に成功したあと、まず最初に起こる感染過程は the lyssavirus genotype によって決まる。canine rabies virus の場合、ウイルス糖タンパクの、筋肉上のニコチン性アセチルコリンレセプターへの結合であるが、some bat lyssaviruses では、表皮もしくは真皮の何らかのレセプター unknown receptors への結合となる。もう1つの特徴である長い潜伏期間は、ウイルスが神経筋接合部において、筋肉または他の細胞内に限局して留まることで、一部説明可能である。スカンクの実験では、狂犬病ウイルスは接種から最長 2ヶ月間、筋肉内で抗原と遺伝子が確認された。ある限られた状況では、このような感染持続状態が、宿主免疫により排除されたり、暴露後に治療できたりするチャンスを与えてくれている"。
この記事では、いずれも非典型的な症状を示し、狂犬病から回復した 3人の患者についてもレビューされている。1991年の文献には、"動物、特に常在地域のイヌの中で、特異的狂犬病中和抗体を有するものがいることは、不顕性感染伝播、感染途絶 aborted rabies infection、致死量以下のウイルスへの免疫反応などが存在することの間接的証拠である"、と記載されている]

アルゼンチン出血熱 20120729.1219090 7月29日

... 血管、神経、免疫などのシステムに大きな変化が起こり、致死率は 20-30%に及ぶ。Junin virus ウイルスの宿主は齧歯類の、特に _Mus musculus_, _Calomys spp_. and _Akodon azarae_ とされている。これらの動物は慢性 ・ 無症候性感染により、唾液 ・ 尿 ・ 血液中にウイルスを排出する。ヒトは、皮膚、粘膜の接触や、ウイルスを含むエアロゾルの吸入により感染する。非常に深刻な急性疾患で、風邪のような症状で発症するが、1-2週間で死に至る可能性がある。感染の潜伏期間は 10-12日間で、発熱、頭痛、体力低下、倦怠感などが初発症状となる。感染早期に既往感染のある患者からの血清による治療が行われる。
[Mod.TYArgentine hemorrhagic fever (AHF) with Junin virus が初めて報告されたのは 1958年で、以後より広い地域から多くの報告されるようになった。アルゼンチン国内ではどちらかといえば一般的であり、ワクチンも開発されている。1991年以降 The Pergamino Institute が製造の責を負っているが、資金不足から十分な量を生産することはできていない。 "感染リスク人口はおよそ 350万人と見られている。有効な弱毒生ワクチンの Candid 1 は、政府、the Pan American Health Organization、the United Nations Development Programme、the United States Army Medical Research and Development Command の共同開発により生まれた。最も発生が多いのは Cordoba, Buenos Aires, and Santa Fe provinces で、ピークの 1964年には 3000 cases を超える患者が確認された。1993 and 1994 年にもそれぞれ 120例の患者が発生している" 。(20010404.0675) ]

シックハウス症候群 20120620.1173736 6月20日

裁判所で65人が突然、吐き気、胸痛、呼吸困難、発疹をはじめとする様々な症状を訴えた。同裁判所が開かれていた2日間で2度目の出来事で一時閉鎖が決まった。揮発性化学物質検査の結果は陰性で、委託業者によりダスト、花粉、カビなどの検査が行われた ....
[Mod.TG-人数から、ある種のエアロゾル化された物質の伝播が関与し、化学物質によると考えられる。(状況として) "sick building syndrome" (SBS シックハウス症候群) に似ているように感じられる。建物内での滞在に関係して発生したと考えられる急性の健康・気分障害で、原因を特定できないものを指す。ある特定の部屋または場所に限定して経験されたり、建物全体で起きたりする。これに対し "building related illness" (BRI 建造物関連疾患) の用語は、診断可能な疾患による症状であり、直接影響のある大気中汚染物質が特定される場合に使われる。1984年の WHO の委員会報告では、世界中で新築または改装された建物の最大 30% が、indoor air quality (IAQ 室内空気環境) に関連する苦情の対象となっていることが示唆された。一過性であることが多いが、一部では長期間持続する問題となっているものもある。しばしば、本来のデザインや操作手順に従わずに建物が使用された場合に問題が発生する。室内空気環境については、設計や使用環境 occupant activities に問題があることもある。
SBS が疑われる項目:
- 居住者 Building occupants が急性の気分不快、たとえば頭痛、眼・鼻・のどの不快、乾いた咳、皮膚の乾燥や痒み、めまいや吐き気、集中力低下、疲労、悪臭などを訴える
- 症状の原因が特定できない
- 建物から離れるとほとんどの人の症状が消失する
BRI が疑われる項目:
- 居住者が、咳、胸部苦悶感、発熱、悪寒、筋肉痛などの症状を訴える
- 臨床的に定義可能な症状で、あきらかな原因 identifiable causes がある
- 退避後も回復に時間がかかる場合がある
他の原因の可能性がある点は重要である。たとえば、建物の外部で罹患した疾患、急性過敏症 (アレルギー反応など) 、職場のストレス job related stress or dissatisfaction、そして他の心理的要因などである。しかしながら、これらの症状が indoor air quality problems の原因または増悪因子になることが、研究で確かめられている。
SBS の原因として、不十分な換気、建物内 ・ 外 (空調からの取り込み) での化学物質の使用、 建物内や空調システム内のカビなどの生物学的要因、アスベストやラドンなど、数多くの原因が示されている ... 出典 the US Environmental Protection Agency posting on Sick Building Syndrome]

E 型肝炎 20120619.1173453 6月19日

[Mod.CP-E 型肝炎 hepatitis E virus (HEV) infection の可能性が考えられる。エンベロープを持たない positive-sense 1本鎖 RNA virus である hepatitis E virus の自然宿主はヒトであると考えられているが、HEV もしくは近縁ウイルスに対する抗体が、霊長類やその他の動物種で同定されている。インド、東南アジア、北および西アフリカ、メキシコの、特に便による汚染のある水の摂取が多い地域で報告されている。ヒト-ヒト感染は多くなく、性行為感染するとのエビデンスはない。一般的に自然治癒傾向のある自己完結型感染症で、多くの場合入院を要しない。長期にわたるウイルス血症や糞便中へのウイルス排泄の持続は一般的ではなく、慢性感染も起こらない。時に劇症型感染を発症する場合があり、全患者死亡率は 0.5-4% とされている。劇症肝炎は妊娠女性に起こりやすく、妊娠第3期の女性では致死率が 30%に達する。曝露後の潜伏期間は 3-8週間で、平均すると 40日間である。伝染性を有する期間については、よく分かっていない。経過を改善させる有効な治療法やワクチンもない ... the WHO]

セレウス菌 20120514.1132522 5月14日

[Mod.LL-潜伏期間が短いことから pre-formed enterotoxin が疑われ、その原因食品がコメだとすれば、セレウス菌 _Bacillus cereus_ が原因菌と考えられる。一般にセレウス菌食中毒の用語が使われるが、この病原菌による食中毒には 2つの病型 (下痢型と嘔気型) があることが知られている。一部の集団発生では 2つの病型が混在することもある。
(日本国内では下痢型より多い) emetic(嘔気)syndrome は,低分子量で熱に強くpHに安定なペプチドトキシン cereulide を原因とし,このトキシンの摂取から 0.5ないし 5時間以内に嘔吐を生じる。黄色ブドウ球菌 _Staphylococcus aureus_ food poisoning に症状が似ている。
(北米や欧州に多い) The diarrheal(下痢)illness は,高分子量蛋白 high molecular weight protein を原因とする。下痢型の症状としては、腹痛、水様下痢、テネスムス rectal tenesmus、下痢を伴い、発熱のない軽度の嘔気があり,嘔吐はほとんど見られず、6-15時間後に発生し24時間持続する。症状は比較的穏やかで、クロストリジウム菌 _Clostridium perfringens_ food poisoning の症状に近い。下痢型は小腸内でのセレウス菌増殖過程で産生される enterotoxins が原因となる。発症には多数の細胞(菌?, Large numbers of cells)が必要で、食品が菌の増殖を防ぐために適切な温度に保管されていなかったときに起きる。軽症であることが多いものの、劇症型肝不全による死亡例の報告 (Fulminant liver failure in association with the emetic toxin of _Bacillus cereus_. N Engl J Med 1997; 336(16): 1142-8) がある]

髄膜炎菌性髄膜炎 B 型,ワクチン 20120505.1124002 5月5日

25歳の若い研究者が、ワクチン開発に取り組んでいた研究室で、強毒型の髄膜炎菌に感染し、死亡したと見られている。20年以上前からこの研究所が取り組んでいる、serogroup B ワクチンの開発は成功に至っておらず、研究者が死亡したのも同菌の感染によるものだった。この研究者は、発病から1日足らずのうちに、髄膜炎菌感染による多臓器不全と敗血症性ショックのため死亡した ...
[Mod.MLJournal Watch 掲載の laboratory-acquired meningococcal disease に関する報告: "髄膜炎菌 _Neisseria meningitides_ による感染は,細菌性髄膜炎と敗血症の原因となる。診断は通常、標準的細胞培養液上での培養検査で行われる。吸入による感染が最も多く、微生物学関係者は、研究室での細菌の取り扱いの際に曝露する可能性がある。2000年に職業上の曝露による 2人の微生物学者の死亡が発生したことをきっかけに、CDC はインターネット上で同様の職業上の曝露による感染報告を求めることとなった。"合計 16 cases の報告が集まり、8例が米国内での発生だった。9例 (56 %) が serogroup B、7例 (44 %) が serogroup C の感染で,50%に当たる 8 人の患者が死亡していた。鏡検用プレパラートの準備 (50 %)、subcultures [?] の作成 (50 %)、血清型の同定検査 (38 %) が行われている。いずれも microbiology labs に勤務していた。一般人口に比べ 7倍の感染リスクがあると見積もられている。
"コメント: 多くの場合、感染リスクは、患者の検体ではなく、純粋培養 (中の菌) への曝露に関係する。現在のワクチンには、_N. meningitidis_ type B に対する防御効果はなく、感染リスクを免れることはできない"。
通常認められる髄膜炎菌の血清型 common meningococcal serogroups は 5種類: A, B, C, W135, and Y で、6番目の型 (X) が最近アフリカで新たに確認された。莢膜多糖体もしくは蛋白結合ワクチンによって、serogroups A, C, W-135, and Y による疾病に対する免疫を獲得することができる。Serogroup B は今も世界中の乳児や青年の重症の侵襲性感染症の唯一の原因菌として残されている; しかし,the serogroup B polysaccharide (多糖体) は、ヒトの神経細胞接着因子 the human neural cell adhesion molecule に似ているため、(B 型多糖体ワクチンは開発の上で重要な) 免疫原性が乏しい。以前、ニュージーランドで使用されたことのある The MeNZB™ vaccine は、ニュージーランド国内特有の型 a particular strain of meningococcal B disease だけに対する防御を目的に開発された。しかし the MeNZB™ vaccine はこの特殊な specific B strain 以外の,A, C, Y or W135 or the many other strains of B に対しては免疫効果がなかった。蛋白質をベースにした 4種類の型に対する新しいワクチン component meningococcal serogroup B (4CMenB) vaccine は、the New Zealand outbreak strains の外膜小胞 outer membrane vesicle に、3種類の半保存表面タンパク抗原 semiconserved surface-protein antigens: factor-H binding protein variant 1(fHbp1), neisserial heparin binding antigen (NHBA), and neisserial adhesin A (NadA) が加えられ、現在開発中である 。広い範囲のスペクトラムを持つワクチン broad-spectrum B vaccine となることが期待されている (参考文献紹介あり)]

ヘビ毒(咬症) 20120501.1119730 5月1日

[Mod.CP-世界中の多くの地域で、毒ヘビ Venomous snakes (咬症) は発生しており、最も生息数が多い熱帯の農村部では特に公衆衛生の脅威となっている。世界で3000種以上いるヘビのうち、およそ 600種が有毒で、医学上重要であるのは 200種以上とされる。snakebite envenoming は、熱帯農村部の住民にとって日常的に遭遇する公衆衛生上のリスク,農業や狩猟関係者にとってはありふれた職業上の傷害である。熱帯地方で一般的な戸のない住居の床で寝る習慣も、夜間のヘビによる攻撃に身を曝すことにつながっている。女性、子ども、農民らの犠牲者が最も多い。身体が小さい子どもは成人より深刻な影響を受けやすい。ヘビ抗毒素免疫グロブリン (antivenoms,抗毒素) が、ヘビ咬症による中毒の唯一の治療であり,死亡や有害事象を最小限とするために重要な役割を果たしている。各地域の重要な毒蛇に関するデータベース(写真による資料、治療用の抗毒素薬等)の閲覧が可能である (WHO)。抗毒素の生産には危険を伴い、生きた動物を使用しなければならない。特に高力価血漿 (抗毒素免疫グロブリンの元) 産生のために適切な混合ヘビ毒 snake venom mixtures を用意する重要性、生産業者の減少、途上国の脆弱な生産体制などが、アフリカ、アジア、中東、南米における、有効な抗毒素入手の障害となっている。その結果として、インドにおけるヘビ咬症による死亡率の高さは理解可能である]

クロストリジウム菌 20120207.1035743 2月7日

50人の集団食中毒の原因が、タコスのクロストリジウム菌 _Clostridium perfringens_ 汚染によるものであったことが判明した。タコスを食べた75%が発病していた。
[ModLL-産生トキシンによるブドウ球菌性食中毒と異なり、クロストリジウム _C. perfringes_ による疾患では、人体内の消化管で the enterotoxin が産生される。
以下、 the FDA Bad Bug Book からの転載
1. _Clostridium perfringens_ は、嫌気性グラム陽性の芽胞形成桿菌で、広く環境中に存在すると共に、ヒト、家畜、ペット動物の消化管にも発生し、芽胞は、土壌中、 堆積物、やヒトや動物の排泄物による汚染のある場所に存在する。
2. Perfringens food poisoning は、同菌による一般的な食中毒疾患に対して用いられるが、より重篤だがまれな疾患が、Type C strains で汚染された食品の摂取が原因となって発生することもあり、この場合は、壊死性腸炎 enteritis necroticans あるいは pig-bel disease と呼ばれる。
3. Nature of Disease: 一般的な病型は、毒素産生能を持つ大量の菌に汚染された食品の摂取の 8-22時間後に起こり始め、激しい腹痛と下痢を特徴とし、通常、24時間以内に軽快するが、一部の患者ではより軽い症状が1-2週間持続することがある。脱水その他の合併症による少数の死亡例も報告されている。 _C. perfringens_ による壊死性腸炎は、消化管の壊死とそれによる敗血症が原因となって死亡につながる。
感染菌量 Infective dose -- 発症は、多量 (greater than 100 0000 000) の vegetative cells の摂取が原因となり、消化管(あるいは試験管)内の毒素産生は、胞子形成が関係する。Intoxication (preformed toxin による疾患) が考えられる事例も報告されている。
4. 診断法: 症状と典型的には発症時期の遅れにより診断される。確定診断は便中のトキシン検出による。また、食品や患者の便中の異常な数の病原菌により、診断が確かめられることもある。
5. 関連する食品: ほとんどは食品の不適切な温度管理による。調理後に存在する少数の病原体が、料理を冷まし保存する間に、中毒を発症させる量にまで増殖する。最も関与が多いのは、肉、肉製品、gravy などである。
6. 相対発生頻度: 米国ではもっとも多い食中毒の1つ。 1162 cases in 1981 ....
7. 合併症: 通常症状の持続は24時間だが、高齢者や衰弱した患者では 1-2週間に及ぶこともある。死亡を含む合併症の発生は極めてまれである。
8. 罹患しやすい人々: 施設内での食事 (学校のカフェテリア、病院、老人ホーム、刑務所など) ..... 高齢者と若年者(幼児? the young) が犠牲になることが最も多く、the case of pig-bel syndrome を除けば、30歳以下の患者での合併症発生はほとんどない。高齢者は、重篤な合併症に長期間苦しむ可能性が高い。
9. 食品分析: 患者の便検体と食品について行う、標準細菌培養検査により、病原体は検出される。患者便中のエンテロトキシンの検出と細菌のトキシン産生能の確認には、血清学的検査が用いられるが、1-3日を要する]

イスラエル紅斑熱 20120207.1034330 2月7日

2011年9月、イスラエル人女性兵士が、6日間続く発熱と頭痛、筋力低下、広範囲の発疹を主訴に受診。2日後、不眠、嘔吐、頭痛の悪化のため、別の病院を受診し、翌日両下肢の筋力低下のため、車椅子で救急室を受診した。再び自宅に帰された2日後、呼吸困難と発語障害を訴え救急室を受診し、多臓器不全が認められたため、集中治療室に入院となり、イスラエル紅斑熱 Israeli spotted fever と診断された。
[Mod.AS/LL-地中海紅斑熱 Mediterranean spotted fever (MSF)、 別名 boutonneuse fever は _Rickettsia conorii_ を原因とし、高熱、頭痛、筋肉痛、発疹の症状が見られる。2005年、血清学および遺伝学的な差異に基づき、複数の株 several strains of _R. conorii_ を subspecies とすることが提案された。典型的な MSF の病原体は _R. conorii_ subsp. _conorii_ であり、インドダニチフス Indian tick typhus、アストラハン熱 Astrakhan fever 及びイスラエル紅斑熱 Israeli spotted fever (ISF) の病原体はそれぞれ、subspecies _indica_, _caspia_ and _israelensis_ と呼ばれている。The ISF organism がはじめて確認されたのは1974年のイスラエルで、当初は限定された地域だけに分布すると考えられていたが、 ポルトガル、シチリア、チュニジアなどの北アフリカ各地でも発見されている。病原体は、潜在的保有宿主 the underlying reservoir としてのイヌと、ダニベクターの _Rhipicephalus sanguinus_ が関係する。診断の遅れがしばしば感染による死亡につながることから (米国のロッキー山紅斑熱のように) 臨床症状に基づいて早期に疑い治療を開始する必要がある。ダニに曝露してから6-7日間の潜伏期間をおいて、頭痛、筋肉痛、高熱と手掌や足底にまでひろがるびまん性の発疹の症状が現れる。目印 hallmark of MSF となるのは、タシェノワール tache noir と呼ばれる、ダニ刺咬部位の痂皮 eschar であるが、ISF ではしばしば欠如する。同疾患はイスラエル国内で endemic であり、1971-1990年の発生率が、人口10万対 0.7 から 10.3の範囲で変動した後、次第に減少しつつある。保健省 the Ministry of Health, Jerusalem 週報 によると、2011年の年間の紅斑熱 "spotted fever" の総患者数は13人で、2010年は年間15人だった。毎年、10歳未満での発生数が最も多く、65歳以上で最も少ない。きわめてはっきりとした季節性があり、ほとんどの患者が 6月から10月の間に発生する ...参考文献2件紹介]

クリミアコンゴ出血熱 20120121.1017799 1月21日

[Mod.CP-クリミアコンゴ出血熱 Crimean-Congo haemorrhagic fever (CCHF) は、the genus _Nairovirus に分類されるウイルスによる出血熱で、the genus _Nairovirus_ のウイルスはすべてヒメダニ argasid もしくはマダニ ixodid ticks が媒介する。ヒトに対する病原性を有するものは3種類のみ: the Dugbe and Nairobi sheep viruses, そして CCHF ウイルスである。 基本的には人獣共通感染症の形を取るがヒトのアウトブレイクが発生することもある。アフリカ、欧州、アジアの多くの国々に endemic となっている。ヒトに感染すると重症化し、致死率も高い。動物例の感染は多いが、さいわいヒトに感染することは多くない。CCHF virus は広い範囲の家畜と野生動物に感染する可能性があり、鳥類は感染しないが、ダチョウは例外的に susceptible で,endemic areas で広く感染が認められる。動物は感染ダニの刺咬によりウイルスに感染するが、最も重要感染経路は未成熟ダニ immature _Hyalomma_ ticks による小型脊椎動物の吸血による感染とされている。ウイルスに感染したダニは、全発達段階を通じて感染性を有し、成熟ダニ the mature tick となって、家畜のような大型脊椎動物に感染伝播を引き起こすと考えられている。ウシ、ヒツジ、ヤギなどの家畜反芻動物は、感染後約1週間、ウイルス血症の状態となる。ヒトの CCHF 感染は、感染性のある家畜の血液その他の感染組織との直接の接触と、ダニの刺咬により起こる。患者の大部分は,農業,と畜,獣医などの畜産関連の職業に関係している。潜伏期間は感染様式により,ダニ刺咬では 1-3日、最大9日間であるが、感染性血液や組織との接触による感染では、5-6日から最大13日間となる。発症は突然で、発熱、筋肉痛、めまい、頚部痛と硬直、背部痛、頭痛、眼痛、光線過敏などを伴う。早期の症状として、嘔気、嘔吐、咽頭痛に、下痢や腹部全体の痛を伴うこともある。それからの数日間で、はっきりした気分の変調や、時に錯乱や攻撃性が見られるようになる。2-4日後に、不穏状態から、傾眠、うつ、無気力 となり、腹痛は右上腹部に限局し、肝腫大が触知可能となり、出血傾向や出血性の肺炎が認められる場合もある。CCHF による致死率はおよそ 30% で、死亡は発症から第 2週目に発生する。suspected or confirmed CCHF 患者の血液または感染性の組織に触れた医療従事者には、推定される曝露から少なくとも14日間、体温と症状のモニターとフォローアップが必要である。]